『大奥』“怪物”仲間由紀恵の狂気があらわに “世を変えたい”という志が家斉を変える

「男が……男が政を語るのではないわぁ!」

 赤面疱瘡の人痘接種再開を提案した家斉(中村蒼)を治済(仲間由紀恵)がなじる、原作でも印象的な場面を仲間がドスをきかせた声と冗長な台詞回しで完璧に再現。ぴんと空気が張り詰めるような迫力に、こちらまで肝が冷えた。

 さらに、治済は「男など女の力がなければ、この世に生まれ出ることもできぬ出来損ないではないか」と強烈な男批判を繰り広げる。前回の「母ならば、男子を産んだことはないのか。産んだならば、その子を赤面で亡くしたことはないのか」という黒木(玉置玲央)の問いへの間接的な返答だ。

 国会で女性議員が答弁すれば、男性議員からヤジが飛ぶ現代とまさに逆転。時代や立場が変われば、差別対象も変わるということがよく分かる。ただ、治済の場合は自らこの世に産み落とした男はおろか、生きとし生けるものすべてに対する敬意を持たぬ怪物だった。

 3代・家光以来の男将軍が誕生したNHKドラマ10『大奥』第14話。美男三千人と言われる大奥は、美女三千人が将軍に仕える華やかな場所となった。けれど、すでに人痘接種を終え、自由に動けるはずの11代・家斉は母である治済の言いなり。いわばお飾りの将軍で実権はなく、その役目は今までの大奥の男たちと同じく“種付け”のみである。結果的に家斉と側室との間には就任から5年間で11人の子が生まれ、幕府の財政を圧迫。家斉に不用意に子を作らせる治済と、質素倹約をポリシーとする老中首座・定信(安達祐実)の間に対立を生んでいた。

 「2人の女の化け物の板挟み」と家斉の状況を説明するナレーションに思わず笑ってしまったが、その化け物レベルはまるで違い、治済のそれは度を超えている。自身に楯突いた定信を老中の座から引きずり下ろし、隠居を願い出た武女(佐藤江梨子)を毒殺。その武女を使って邪魔者を排除してきたことも、肯定こそできないがまだ理解はできる。時を遡れば、家光の乳母である春日局(斉藤由貴)も、吉宗(冨永愛)の右腕だった久通(貫地谷しほり)もやってきたことだ。

 けれど、治済は家斉の御台所である茂姫(蓮佛美沙子)と側室・お志賀の方(佐津川愛美)の子、つまりは自身の孫にまで毒を盛り、死に至らしめたのだ。子を亡くした2人の失意の表情と悲痛な叫びが胸に刺さる。が、その姿こそ治済の見たかったものであり、「世には人がもだえ苦しむさまを楽しむ趣味の者もおるというぞ」と定信は信じられないといった様子の家斉に説いた。その瞬間、忘れていた記憶が蘇る。幼き日の家斉が怪我を負った責任を取り、毒を飲んで悶え苦しむ武女の姿と、それを見た治済の恍惚の表情が。

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