『カンダハル 突破せよ』監督が語る、ジェラルド・バトラーへの信頼と絆

 全国1億人のジェラルド・バトラー映画ファンの皆様、お待たせしました。このたびジェラバトさん主演の最新作『カンダハル 突破せよ』(2023年)が日本で公開されます。ジェラバト映画と言えば、ホワイトハウスが占領されたり、武装強盗団と正面衝突したり、地球の天気が狂ったり、そんな“詰み”な難局を、誰がどう見ても頼れるビジュアルのジェラルドさんが、ガッツと腕力で何とかするのが醍醐味であります。本作『カンダハル 突破せよ』も同様です。今回のジェラバトさんは特殊工作員なのですが、イランで核開発施設を爆破したはイイものの、うっかりバレてしまってイランの精鋭部隊に、過激派、さらにパキスタンの特殊工作員や、一攫千金を狙う武装集団に追われるハメに。助かる方法は唯一、カンダハルから飛び立つイギリスの輸送機に乗り込むこと。しかしタイムリミットは30時間、おまけに移動手段は車か徒歩で、味方は通訳のみ……どう考えても無理な状況ですが、今回もジェラバトさんは大奮闘! この絶対の危機に真正面から挑んでいきます。

 今回は、本作の監督にして、ジェラバトさんと『エンド・オブ・ステイツ』(2019年)、『グリーンランドー地球最後の2日間ー』(2020年)に続いて3回目のタッグを組んだリック・ローマン・ウォー監督にインタビューを敢行! ジェラバトさんとの絆や、本作へのこだわり、そして映画にかける思いについて、詳しく語ってもらいました。

「僕が興味を持っているのは、人間のモラルなんだ」

ーー『カンダハル 突破せよ』とても楽しく拝見しました! 監督がジェラルド・バトラーさんの主演作を手掛けるのは、今回で3度目ですね。まさに名コンビといった感じですが、2人がクリエイティブな関係性を持続させている秘訣を教えてください。

リック・ローマン・ウォー(以下、ローマン・ウォー):一言で表すなら、「信頼」だね。俳優とフィルムメイカーは、信頼関係が大切なんだ。映画を作っているときに「何やってんだ、こいつ?」とは思われたくないからね。私たちはお互いに助け合って、2本の映画を作り、信頼関係を築いたんだよ。そして信頼があるからこそ、次の映画では、もっとハードルを上げようと考えることができるんだ。同じことは繰り返したくない。次の作品はより大きく、より良いもの、より大胆にしたい。まさに今、そういう心持ちで新作を撮っているんだ。

ーーお互いに強い信頼関係があるわけですね。そんなジェラルド・バトラーさんですが、私は『300』(2006年)の頃から、彼は危機的な極限状態で輝く俳優だと考えています。監督もジェラルドさんを極限状態に放り込み続けていますが、ひょっとして監督もジェラルドさんと極限状態の相性は良いとお考えでしょうか? 

ローマン・ウォー:ジェラルドにエクストリーム・シチュエーション(極限状態)が似合うという意見には、僕も賛成だ。というか彼は、キャリアの初期からそういう状況に置かれたキャラクターを演じる映画を選んできたように思う。そして彼も僕も、そういう物語にワクワクするんだ。僕は偉大なるマイケル・マン監督の映画『インサイダー』(1999年)のように、「普通の人が極限状態に置かれる」のが一番面白いとも思っている。そして今、『300』の話題が出て「おっ!」って思ったよ。というのも、実は今回の『カンダハル 突破せよ』の主人公のキャラクター像は、『300』の主人公のレオニダスを参考にしたからだ。『300』で、ジェラルドは戦士を演じているが、同時に人間性もきちんと見せていた。それは『エンド・オブ・ステイツ』のマイク・バニング役にも通じる。今回の『カンダハル 突破せよ』の主人公も、戦争に対してある種の中毒になっている。戦争は終わったのに、まだ戦士として戦う場所を求めている。根っからの戦士だが、同時に人間性を持っていると見せたかった。戦士は戦士であって、決して変わらない。しかし僕は、戦士の暴虐的な部分だけではなく、人間的な側面を見せることが好きなんだ。

ーージェラルドさんへの解釈が一致して嬉しいです! そんな極限状態が似合うジェラルド・バトラーさんが魅力的な作品ですが、一方で本作には群像劇的な側面があると思います。主人公たちを追う側にも家族がいたり、美学を持っていたり、彼らを単なる悪役ではなく、ある種のプロフェッショナルとして描いているのが印象的でした。

ローマン・ウォー:それは意識しているね。今日の映画では、善か悪か、キャラクターがハッキリ分かれているものが多いように思う。けれど現実の人間は、短所もあれば、長所もあるものだ。本作の脚本をジェラルドと読んだときに気に入ったのは、『羅生門』(1950年)のように、いろいろな視点から物語が描かれている点だった。「中東で暴力の連鎖が起きている!」というだけではなく、それぞれの視点から物語を描きたかった。だから追っている者にも、主人公と同じく家族がいて、家族のもとへ戻りたがっている姿を見せたんだ。他にも、異なる立場の人間の視点を見せるために、ジェラルドと一緒にこだわったのは、現地の言葉を使うことだ。だから作中では7つの言語が飛び交っている。それに膨大なリサーチも重ねたんだ。おかげで『カンダハル 突破せよ』では、今の中東の状況……たとえば、進歩的な動きもある一方で、非常に保守的な勢力もあって、対立を繰り返している、そういった状況をリアルに描写できたと自負しているよ。

ーー監督の考え方について、貴重な話が聞けて嬉しいです。ここで少し過去作の話をしたいのですが、監督の作品では、しばしば「危険で暴力的な世界」で生きる男性、そして父親が登場します。そして、そういった男性の強さと哀しみを描いているように思います。この点も意識されているでしょうか?

ローマン・ウォー:少し違うかな。今までの作品は主人公が男だから、必然的に父親にスポットが当たっているだけだと思う。僕が興味を持っているのは、人間のモラルなんだ。たとえば監獄のような危険な環境で、人は自分を守るため、あるいは家族を守るため、どこまでやれるのか? モラルを踏み越えてしまうのか? こういったことに興味があるんだよ。たとえば『グリーンランド』では、アリソン(モリーナ・バッカリン演じる主人公の妻)が、まさに「危険で暴力的な世界」に陥るだろう? 映画の中でそういった姿を見せることで、観客に「生や死がかかった状況で、自分ならどこまでできるだろうか?」と自問してもらえるような作品を作りたいんだ。

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