『下剋上球児』はスポ根ではない野球ドラマ 鈴木亮平が葛藤を抱える野球部監督に

 10月15日に放送がスタートした『下剋上球児』(TBS系)は、これまでにない野球ドラマになる可能性を秘めている。三重県にある公立白山高校が甲子園に初出場するまでの軌跡を綴った同名書籍にインスパイアされた本作は、いわゆる「スポ根」と違う軸から青春、そしてスポーツを描く意欲作だ。

 物語はゼロ地点からスタートする。いわゆる甲子園、正式には全国高等学校野球選手権記念大会への出場をゴールとするなら、起点は前年度の敗退になるのが通常のサイクルである。しかし、本作の舞台である県立越山高校には野球部がなかった。正確に言うと、あるにはあったがメンバーが1人しかいなかった。試合ができないチーム、それが越山の現状だった。

 2018年の夏に甲子園出場を果たす越山高校のサクセスストーリーは2016年に始まった。その年、越山高校野球部は廃部寸前。赴任して3年目となる社会科教師・南雲脩司(鈴木亮平)が野球部の監督に就任したことがきっかけだった。ドラマの語り手は家庭科教師で野球部部長の山住香南子(黒木華)で、顧問と監督を兼任していた国語教師の横田(生瀬勝久)が定年を迎えることから、南雲に白羽の矢が立った。

 野球という競技は何重にもハードルがある。ルールが細かいことに加え、チームメイトがそろい、指導者を探し、道具をそろえ、場所を手配し、対戦相手を見つけて初めて試合ができる。いくら野球をやりたいと思っても1人では何もできない。3年の日沖誠(菅生新樹)がその状態だった。

 チームが始動するまでの入り組んだ隘路を本作は丹念に解きほぐす。南雲の個人的な背景、家族構成や球児だった過去を明かし、地元の大地主で大の野球好きである犬塚(小日向文世)の度を越した干渉を浮き彫りにする。南雲が語った、強豪校ではない高校の生徒に甲子園へ行こうと言うのは「酷だし、無責任です」という言葉は、弱い立場の者が上位者に勝つ下剋上がはらむ問題点をとらえていた。それは同時に、南雲の中の野球に対する複雑な心情を表していた。

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