『どうする家康』ムロツヨシの狂気の芝居を忘れない 秀吉らしい切ない最期

「わしは、おめえさんが好きだったに」

 高笑いをしていたはずの秀吉の声色がとても切なかった。第38回で秀吉は、大勢から慕われる家康がずっと羨ましかったと胸中を打ち明けた。秀吉が本当に欲しかったのは、お互いに心を許し合えるような親しい友人だったのではないか。

 秀吉演じるムロツヨシは、道化として振る舞ったかと思えば、目に狂気を宿し、天下人の権力を使って暴走したかと思えば、心にぽっかりと穴が空いたような佇まいを見せたりと、信長(岡田准一)とはまた違った秀吉の孤独を見事に演じきった。「信長様はご自身のあとを引き継ぐのは……おめえさんだったと、そう思ってたと思われるわ」と家康に伝える秀吉の目には涙が浮かんでいる。信長のもとで地位を築き上げた秀吉だが、信長が望んだのは自分ではなかった。それを素直に「悔しい」と表す姿は心苦しい。

 そんな秀吉に、家康は「天下を引き継いだのはそなたである。まことに見事であった」と激励した。秀吉はたじろぐ。この場面の少し前に、秀吉は「白兎が狸になったか」と家康を揶揄していた。家康の言葉が思いも寄らぬものだったのか、はたまた、自身がかけてほしい言葉をかけられたことに複雑な心境になったのか、秀吉の真意はわからない。けれど秀吉は、今にも泣き出しそうな顔でその言葉をじっくりと受け止めると、「すまんのう…」と小さく頭を下げた。そして、天下を取るであろう家康を見つめると「うまくやりなされや」と伝えた。その落ち着いた声色は、信用できる友人に向けられたものに感じられた。

 秀吉は家康との対話で、十分に安堵を得られたのかもしれない。秀吉が事切れる直前、茶々は「秀頼はこの私の子。天下は渡さぬ。あとは私に任せよ。猿」と冷たく突き放す。けれど茶々は、秀吉が息を引き取った後、ハッとなり涙を流していた。茶々を見つめていた秀吉の表情には影がかかり、はっきりと見ることはできなかったが、微笑んだように見えた。事切れた目は涙で潤んで見えたが、秀吉は茶々の憎しみを知っていた上で彼女を愛し続けていたのではないか。

 “くたばる”と記された秀吉の最期だったが、生涯を終えるその瞬間まで欲を満たし続けながらもどこか満ち足りない、秀吉らしい切ない最期だった。

■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK

関連記事