『呪術廻戦』“五条悟爆誕”によって崩れた世界の均衡の意味を考える
アニメ『呪術廻戦』第35話「降霊」で描かれた、呪詛師と呪術師の戦い。本当に不運というしかない猪野琢真の、オガミ婆とその孫……禪院甚爾を降ろされた孫とのマッチアップ、そして虎杖悠仁、伏黒恵と粟坂二良のバトルはアニメだからこその演出が多く、見応えがあった。
オガミ婆と粟坂が残虐な呪詛師だったことは、回想シーンで十分伝わっただろう。死体の一部を飲んで自他ともに死者に変身する降霊術を持ったオガミ婆は、その能力を使った暗殺の仕事を30年ほど前から行っていた。一方、粟坂は自分よりも弱い人間を蹂躙することが好きで、「人を殺す仕事なんだ、人体の仕組みはよく知っておかないと」なんて理由で人の顔の皮を剥いで楽しんでいた。しかし、そんな2人をはじめとする呪詛師が“自由”を奪われた。1989年12月7日、五条悟がこの世に爆誕したからだ。
幼い彼の懸賞金は億を超え、オガミ婆と粟坂の元にも何やらスーツ姿の男から“依頼”ではないが話がくる。彼らは懐玉編で登場した孔時雨のような仲介人だろう。そして現在の五条家がワンマンで動いていること、ずっと昔から御三家が権力争いをしていることを含め幼い六眼を殺しておきたい人間は業界内でたくさんいるというわけである。しかし、オガミ婆がコーヒーをこぼすだけでなく隣のボックス席に後退りしてしまうほど、粟坂が膝から崩れ落ちてしまうほど彼の存在感は呪詛師をビビらせた。その際の粟坂の“確信”が冷静に考えてみると面白い。
「陸上競技の不動の世界記録が急に更新されだすように、フィギュアスケーターがある選手を境に次々とジャンプの回転数を上げるように、五条悟が生まれて世界の均衡が変わったんだ」
年々力を増す呪霊の原因が五条悟だと理解した、粟坂。彼の言う“均衡”とはつまり、最強の術師が生まれたことに対してその対抗勢力である呪霊側の動きが活発になり、世界のバランスが保たれていたということだ。しかし、そう考えると一つ悲しい事実にぶつかってしまう。もし、“五条が強いから”呪霊の姿が増えたり強くなったりして、それによって世界の均衡が本当に保たれていたのだとしたら。“あの夏”が呪術師にとって、夏油傑にとって忙しかったのは、果たして前年に頻発した災害の影響だけだったのだろうか。