『VIVANT』の面白さはまさに“幕の内弁当” 70年代大作映画的な潔さに舌鼓を打つ

『VIVANT』の面白さは“幕の内弁当”

エピソードごとに趣向が変わる、“幕の内弁当的面白さ”

 これまで福澤監督は、銀行マンの立身出世や、町工場の職人魂や、東大入学への奮闘ぶりを描いてきた。彼の総決算的作品といえる『VIVANT』では、これまで培ってきた経験を惜しみなく投入し、エピソードごとに趣向を変えて、幕の内弁当のような面白さを追求している。

 例えば、乃木、野崎、柚木(二階堂ふみ)の三人が、バルカ共和国から脱出するまでのエピソード(第1話〜第3話)。初っ端から乃木が砂漠のど真ん中でウロウロしているわ、謎のテロリストが爆弾自決するわ、山羊の大群が大暴走するわ、装甲車でクルマを薙ぎ倒すわ、モンゴル国境警備隊が一斉射撃して崖をブチ壊すわ、とにかく画力が凄い。どこまでも追いかけてくるチンギスを振り払って、無事日本に帰国できるかが最大の見どころ。全編を通じて、“脱出アクション”として構築されている。

 続いて、乃木の正体が政府非公認の諜報組織・別班の工作員であることが判明し、テロ組織テントの居所をつかむまでのエピソード(第4話〜第7話)。それまで出番がなかった松坂桃李(別班工作員・黒須役)もようやく登場。日本を裏切った山本(迫田孝也)を首吊り自殺に見せかけて排除したり、家族を人質にとってテント幹部のアリ・カーンを脅迫したり、『ゴルゴ13』ばりに容赦のない“スパイサスペンス”に変貌する。

 そして、乃木がテントのメンバーとして暗躍するエピソード(第8話〜第9話)。第9話のラストでは、乃木が射殺したと思われていた別班工作員は実は生き残っていて、全てはテントに潜り込むための計画だったことが明かされる。つまり、『インファナル・アフェア』(2002年)や『ブラック・クランズマン』(2018年)のような、“潜入捜査官モノ”だったのだ。

 しかもこのテント編は、驚異的計算能力によって児童養護施設の責任者が不正を働いていたことを明らかにしたり、敏腕トレーダーばりの目利きによって信用取引の利益を出したり、乃木の立ち回りがほとんど半沢直樹。エピソードごとに趣向を変え、そこに『半沢直樹』的エッセンスをまぶせることで、全方位的に面白いドラマを創り上げているのだ。

 面白いのは、エピソードごとの方向性が乃木憂助の立ち位置とリンクしていること。彼は“信用ならざる主人公”。物語が進むごとに、彼の肩書きが変わっていく。丸菱商事エネルギー開発事業部の万年課長として“脱出アクション”に巻き込まれ、別班のエリート工作員として<スパイサスペンス>を盛り上げ、テントの一員として“潜入捜査官モノ”に従事する。正体不明すぎるがゆえに感情移入がしにくいというデメリットはあるものの、それを補って余りあるバリエーションの豊かさがあるのだ。

 話題沸騰のこのドラマも、いよいよ第10話が最終回。乃木、野崎、柚木たちが辿り着く終着点はどこなのか、期待して待とう。

■放送情報
日曜劇場『VIVANT』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
©︎TBS

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