『らんまん』“競い合う”意義と最終回への大きな動き 長屋の住人全員の成長物語に

 身体を心配する竹雄に万太郎は「けんどのう……急がんと」と返す。人間の欲望が日に日に増幅し、戦争という形で表れる中、万太郎の中で焦りが芽生え始めていた。彼が守りたいのは、ただただ草花を愛でることのできるささやかな幸せだ。そして、それは万太郎にとって寿恵子や子供たちの寝顔を「愛おしくてたまらない」という目で見つめられる幸せと繋がっている。

「万太郎さんが植物と一緒にいる場所には私じゃ辿り着けない」

 そうどこかで感じつつも、万太郎がこれから成し遂げようとしていることは後の世まで色褪せないと信じている寿恵子。だからこそ万太郎の気持ちに寄り添ったり、ただそばにいるのではなく、その夢の実現のために彼女は自ら動こうとしている。向かう場所は同じだが、各々やっていることは違うから孤独に感じることもある。だけど、それでいいんだと思える強さを寿恵子はこの10年で手に入れたのだ。

 竹雄もまた“いつか新しい酒を造る”という綾の夢を、一緒に叶えたいと考えていた。そのための資金集めとして、上京してきて早々に東京で屋台を開いた2人。波多野(前原滉)や藤丸(前原瑞樹)も駆けつけ、新たな商いは好調な滑り出しとなった。

 一方、竹雄や綾とは入れ違いで、噺家の牛久(住田隆)が真打ちに昇進し、長屋を出ていくことに。旅立ちの日、牛久は長屋でお披露目会を開く。第109話で、千歳(入江美月)が放った「じいちゃん、かっこいいよ。高座に上がるとね、知らない人みたいなんだよ」という言葉が自信に繋がったようで、堂々たる話ぶりを見せる牛久。長屋の人々はこうして自信をつけて一人、また一人と巣立っていった。そこには何の経歴も学歴も持たない状態からスタートし、多くを成し遂げてきた万太郎に「俺も私も負けてられるか」と気持ちを奮い立たされた部分もあったはずだ。“争う”のではなく、“競い合う”。そして時に励まし合って、互いに向上していく。植物学もそんな道を辿ってはいけないものだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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