『SAND LAND』愛らしさをまとったキャラの魅力 手書きのアニメ化は3DCGが正解?
鳥山明の作品世界ほど「手描きの絵の魅力」に満ち溢れたものはないだろう。それを3DCGアニメーションで表現するという大胆な試みを、東映アニメーション制作の劇場長編『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(2022年)が見事に成功させたことは記憶に新しい。今回の『SAND LAND』は、サンライズ・神風動画・ANIMAの共同制作という座組で、またひと味違う秀逸な成果を叩き出してみせた。
サンライズ、3DCG、漫画原作という取り合わせで思い出すのは、大友克洋原作のオムニバスアニメ『SHORT PEACE』(2013年)のカトキハジメ監督による一編「武器よさらば」だ。大友原作の、まさにアナログ漫画芸術の粋ともいえる作品世界を3DCGで再現した映像のクオリティには、当時かなり驚いた記憶がある。そのノウハウが今回の『SAND LAND』にも継承されたのではないかと、映画を観ながら勝手に想像してしまった。そういえば大友が参加したサンライズ制作のOVA『FREEDOM』(2006~2008年)の秀逸なオープニングを手がけたのは神風動画だった(同社はPS3用ゲーム『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』のアニメーション制作にも参加)。さらに『SHORT PEACE』つながりで言うと、安藤裕章監督の1編「GAMBO」で主人公の声を演じたのは、田村睦心。『SAND LAND』では少年悪魔・ベルゼブブ役を快演している。いささか関係妄想が過ぎるかもしれないが、『SHORT PEACE』を思い出して本作も安心して観ていられたのは事実だ。
『SAND LAND』でひときわ印象に残るのは、キャラクターの愉快な掛け合いである。CGならではのダイナミックなアクションも見どころだが、鳥山明作品において外すことのできないキャラクターの魅力がしっかりとアニメーションで表現されているところに、本作の卓抜した強みがある。キャラクターデザインの菅野利之は、80年代から『ドラゴンボール』シリーズに動画、原画、作画監督として関わり、『ドラゴンボールZ 神と神』(2013年)にも作画監督の1人として参加。鳥山明作品とは親和性十分なので、ファンは信頼していい。そして、菅野が育ったスタジオ・ライブの先輩で、現在は同社の代表取締役をつとめる神志那弘志が、本作のディレクションアドバイザーとしてクレジットされている。彼のアニメーターデビュー作はなんと『Dr.スランプ アラレちゃん』(1981~1986年)。実は鉄壁の布陣なのだ。
かつて多くのCG作品で拭えなかった独特の生硬さは、いまやだいぶ改善され、2D作画と遜色ない生命感や愛らしさをキャラクターがまとえるようになった(もちろんプロダクションによって差はあるが)。『SAND LAND』においてその筆頭は、主人公たる砂漠の魔王の息子・ベルゼブブである。とにかく、かわいい。
目つきは悪いが親切で、いつも悪ぶっているが本物の悪にはなりきれず、魔王の息子だというのに人間を含む全生物に対して優しさを捨てきれない……そんなベルゼブブのキャラクターは、これまで鳥山明が創造してきた登場人物たちと同様、多くの人を虜にする根源的魅力を備えている。声を演じる田村睦心の十八番と言えるヤンチャ坊主ぶりも愛らしさに拍車をかけており、思春期以前の少年少女が見たら性癖がどうにかなってしまうのではないかと思うくらい蠱惑的だ(そこは確かに悪魔的と言えるかもしれない)。CGアニメが陥りがちな「挙動のうるささ」を抑えたアニメーションも、鳥山作品の「絵としての魅力」を的確に表現したポージングや構図の美しさを貫いていて素晴らしい。