『アステロイド・シティ』世界観を反映した音楽の秘密 ウェス・アンダーソンらが語る

 9月1日に公開される映画『アステロイド・シティ』より、ウェス・アンダーソン監督、ランドール・ポスター、アレクサンドル・デスプラが音楽について語ったコメントが公開された。

 本作は、『グランド・ブダペスト・ホテル』でアカデミー賞4部門を受賞し、『犬ヶ島』でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞したアンダーソン監督の最新作。時は1955年、アメリカ南西部に位置する砂漠の街、アステロイド・シティ。隕石が落下してできた巨大なクレーターが最大の観光名所であるこの街に、科学賞の栄誉に輝いた5人の天才的な子供たちとその家族が招待される。それぞれが様々な想いを抱えつつ授賞式は幕を開けるが、祭典の真最中に宇宙人が到来する。果たしてアステロイド・シティと、閉じ込められた人々の運命はどうなるのか。

 作品によっては、あらかじめスコアや楽曲をプランニングして撮影することもあるというアンダーソン監督。 しかし、本作は広大な砂漠をロケ地としたこともあり、小さなスペースが随所に配置されていたり、数多くの窓があったり、人が車から乗り降りしたり、ラジオが置いてあったりと、複雑な配置だったため、それを元に音楽の配置を考えなければならなかったという。

 そんな本作の音楽は、音楽スーパーバイザーのポスターと作曲家のデスプラによって選定・制作された。アンダーソン監督は、その選定について「時代設定に合わせた音楽を選定したのですが、アメリカのカントリーミュージックに少し英国テイストが加わっているというか、スキッフル風に仕上げています。映画冒頭に『Last Train to San Fernando』という楽曲がかかるのですが、実際サンフェルナンドはカリフォルニアではなく、トリニダード・トバゴの都市なんです。そうやって自由にさまざまな文化やジャンルをミックスしています」と語った。

 「Last Train to San Fernando」は、1952年にジョニー・ダンカンとザ・ブルーグラス・ボーイズがスキッフルの手法を使って作った楽曲。ポスターは「最近はあまりスキッフルを聞くことはなく、映画のなかでも使われていない。長い伝統があるカウボーイ音楽やカントリー以前の音楽、ウェスタン音楽も同様で、映画では比較的未開拓のフロンティアなんです」と本楽曲の魅力のひとつを語った。そして、「ウェスとの仕事では、あまり深掘りされていない領域の音楽を探求したりできるので、いつもとても楽しい。ベースとなる私の役割は、検討すべきものを見つけ出すことだと思っています」と語った。

 アンダーソン監督とデスプラはいつものように、バンジョー、グロッケンシュピール、チェレスタ、バイオリン、マンドリン、ときにはフレンチホルンやチューバなど、楽器の編成についてアイデアを出し合いながらモチーフで遊んだり、「すべての楽器を混ぜて新しい音をつくろう!」と試したという。そして、 デスプラは、隕石や宇宙人といったモチーフから「宇宙」と、“アステロイド・シティ”の「砂漠」という2つのテーマ性のある曲調を映画にもたらした。デスプラは2つのテーマ曲について「未知の世界と非現実感を思い出させるテーマ曲は、指針でもあります。それはこの世と思えないもので、気体のように私の周囲を漂い、私を宇宙の世界へ連れて行ってくれる。この2つの音は、行きたいところにどこへでも連れていってくれる、催眠術のような小さなモチーフなんです」とコメント。 さらに、アンダーソン監督は「音符を2つだけ鳴らすというシンプルなところから作曲が始まった」とデスプラの作曲のプロセスを明かした。また、「スコアもふんだんに使っているわけではないのですが、これが作品全体をインスパイアし、その形を決定づけました」とも。

 デスプラは、これまで数々の作品でアンダーソン監督とタッグを組んでいるが、本作の楽曲で初めての経験があったという。デスプラは作曲のエピソードについて、「映像などを観ないでウェスのために曲を書いたのは今回が初めてでした。映画の舞台は宇宙ではないけれど、隕石の存在があり、何か別世界のような感じがします。砂漠について考えるとき、まさにその地帯に身を置くようにするんです。すると、風の音が聞こえてくる。近くに建物や電線があったりすると、奇妙な鈴のような音が聞こえてくる。そうやってつくった曲をウェスに聞かせたら、彼は興奮して『これを何バージョンかつくってほしい。セットで演奏するのにもっていくから』と言って、実際にそうしていたよ」とコメント。

 そして、 主演を務めたジェイソンも、セットで流れていたというデスプラの楽曲について「どういう作品を作りたいのかを人に伝えるのは、雲を掴むような曖昧模糊とした行為だから、映像を見せたり、音楽を聴かせたりするのがベストな場合があります。今回のテーマ曲も素晴らしいのだけど、あれは撮影する前から存在していた曲。 それこそ現場で流れていました。とても奇妙で物悲しく、最後は不協和音で締め括られるんです」と語っている。

■公開情報
『アステロイド・シティ』
9月1日(金)TOHOシネマズシャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開
製作総指揮:ロマン・コッポラ、ヘニング・モルフェンター、クリストフ・フィッサー、チャーリー・ウォーケン
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、リーヴ・シュレイバー、ホープ・デイヴィス、スティーヴン・パーク、ルパート・フレンド、マヤ・ホーク、スティーヴ・カレル、マット・ディロン、ホン・チャウ、ウィレム・デフォー、マーゴット・ロビー、トニー・レヴォロリ、ジェイク・ライアン、ジェフ・ゴールドブラム他
原案:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ
制作:ウェス・アンダーソン、スティーヴン・レイルズ、ジェレミー・ドーソン
配給:パルコ ユニバーサル映画
2023年/アメリカ/カラー・モノクロ/スコープサイズ/英語/104分/字幕翻訳:石田泰子/原題:Asteroid City/映倫:G 
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公式サイト:asteroidcity-movie.com 
公式X(旧Twitter):twitter.com/asteroidcity_jp 
公式Instagram:instagram.com/asteroidcity_jp 

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