『らんまん』第2の人生を歩み始めた田邊に訪れた悲劇 痛手を被る学会と後進に託した想い
青長屋に少し寂しげに響くヴァイオリンの音色はもう聴こえない。田邊(要潤)が東京大学から非職を命じられ、植物学教室を去った。それから2年の月日が流れ、『らんまん』(NHK総合)第101話では、万太郎(神木隆之介)の元に信じられない一報が届く。
万太郎の家では、3人の子供がすくすくと育っていた。千歳が7歳、百喜が5歳。そして、寿恵子(浜辺美波)のお腹の中にいた末っ子の大喜も2歳となり、上の子供たちと元気に走り回っている。しかしながら、万太郎の図鑑は未だ版元が見つからず、自費出版や研究の費用で生活は苦しくなる一方。そうした状況も含め、藤丸(前原瑞樹)は「植物学は立場がない」と嘆く。万太郎だけではなく、たとえ立派な学歴や留学経験があっても、他の学科に比べて植物学出身の学生は仕事を得難いようだ。
おそらく田邊が学内政治に長らく明け暮れていたのは、その状況を覆すためでもあるだろう。自ら政府の役人とも繋がることで強固な立場を築き、植物学そのものが軽んじられぬようにしてきたとも言える。その手段がいつの間にか目的にすり替わってしまったが、田邊は皮肉にも政治争いに敗北したことで初心を思い出すことができた。
埃を被っていた若草色の胴乱はきっとずっと、再び彼の腰に下げられる日を待ちわびていたはずだ。その胴乱を教室に残してきたのは、田邊のもう二度と植物学の世界には戻らないという覚悟に思えた。最後に新種を発見し、やりきったという気持ちもあるだろうし、自分の後任についた徳永(田中哲司)への「初心を忘れるな」というメッセージでもあるかもしれない。いずれにせよ、学界は田邊を失った痛手をこれからじわじわと実感することになるのではないだろうか。