『らんまん』要潤演じる田邊はなぜ魅力的な人物に? 万太郎に感じるわずかな物足りなさ

『らんまん』田邊はなぜ魅力的な人物に?

 NHK連続テレビ小説『らんまん』は実在する牧野富太郎をモデルにして大胆に再構成したドラマであることは周知されている。だから、主人公は槙野万太郎(神木隆之介)と名前が違うし、ほかの登場人物たちもモデルとは名前が違う人物が多い。

 名前の付け方がうまく考えられていると感じたのは、植物の学名である。makino(マルバマンネングサ Marubamannengusa Sedum makino)やyamamoto(ヤッコソウ Mitrastemon yamamotoi Makino)など、人名が使用されているものに関わる登場人物は、実在の学名と同じ名前が使われている。ただ、そこにも工夫があり、ヤッコソウでは、実話では牧野富太郎は発見した少年の名前を使わず学校教員のyamamotoを使用しているところを、大胆に再構成し、少年を山元姓にしている。

 第20週のサブタイトルになった「キレンゲショウマ」は田邊(要潤)が発見した極めて珍しい新種新属。学名の実際は、モデルの矢田部良吉からとったyatabe だが、ドラマでは田邊が発見したのでtanabe。Kirengeshoma turbinata tanabeとなっている。実際は、Kirengeshoma palmata Yatabeとキレンゲショウマ以降、人名以外も違うのだ。マルバマンネングサ、ヤッコソウ、キレンゲショウマと、学名にも少しずつひねりを加えているところがおもしろさではある。がそれだけではなく、キレンゲショウマの学名を変えた理由ははたしてあるだろうか。

 Turbinataは螺旋という意味でpalmataは掌という意味である。それぞれ植物の個性を示している点では同じではあるが、螺旋にはより深い意味を読み取ることが可能だ。それは田邊が最も愛した植物のシダとの共通点である。シダの若芽のゼンマイのような形は螺旋のようで、花も種子もないにもかかわらず増殖していく永遠性は螺旋の形状に例えることもできる。そもそもDNAは螺旋状である。世の中にフィボナッチ数列フェチが一定数存在しているように、田邊もまた螺旋を思わせるものに敏感に反応してしまう属性で、彼がキレンゲショウマを発見したのは運命だったのだ、たぶん。人間の手つかずの“原生林”に咲き誇っていたというところもまさに田邊好みであろう。同時期に、山元虎鉄(寺田心)からキレンゲショウマを送られた万太郎よりも、キレンゲショウマとは田邊のほうが縁が深かったということである。

(左)田邊彰久役・要潤、(右)田邊聡子役・中田青渚

 田邊の妻・聡子(中田青渚)は夫を「始祖にして、永遠」であるシダになぞらえ、「旦那様のはじめた学問には続く人がいます。あなたがはじめたんです」と讃えた(第99話)。その思いが、turbinataに込められているように感じてならない。

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