『ファインディング・ニモ』に眠る監督の創作論 魅力的なキャラクターに共通する“背骨”

『ファインディング・ニモ』監督の創作論

 フジテレビ系『土曜プレミアム』にて、映画『ファインディング・ニモ』が8月5日に放送される。ピクサーが誇る人気映画である本作は、ニモのビジュアルの印象も相まって、映画ファン以外からも認知度の高い作品であることは言うまでもない。父子の絆を描いたハートフルなストーリーに、海ならではの個性豊かなキャラクターたち……と語るべき要素は山ほどあるが、少し視点を変えると本作の別の側面が見えてくる。

 単刀直入に言って、筆者は本作を少し「怖い」と感じたことがある。序盤のニモと友人たちの珊瑚礁での楽しい時間が終わるとともに、明るく煌びやかだった海は薄暗く得体の知れない場所へと変化していくからだ。

 しかも、“危険がいっぱい”な海を旅することになったマーリンの旅のパートナーは、心根はいい奴であるが、すぐに物事を忘れてしまう頼りないドリー。大人ながらに、マーリンの心労を思うと心が痛くなってしまう。さらに物語後半で登場するダーラの恐ろしさと言ったら、幼い子どもなら泣きかねない。

 しかし、この冒険の中に漂う先の見えない不穏な空気は、本作の監督であり、ほとんどのピクサー作品の脚本に関わっているアンドリュー・スタントンの計らいでもある。

 スタントン監督はTED「すばらしい物語を創る方法」の中で、「いい物語は必然性を持ちながら先を読むことができない」と語っている。(※)要約すると、「観客は主題を自分で見つけたがっているからこそ、緻密に計算された情報の欠如が人を惹きつける」ということを語っている動画で、そう考えると、誰も地図を持たない怪しげな海に親子が放り出されるという本作のストーリーにも納得がいく。

 さらに、ドリーの物忘れや予測不能なダーラの悪行がうまくいきそうな冒険をかき乱す様子も、監督が語る“いい物語”のストーリーテリングの掟に沿っているように感じられるのではないか。

 また、『ファインディング・ニモ』の最大の魅力でもあるマーリンのキャラクター性にも、スタントン監督がストーリーテリングに用いる別の掟が活きている。スタントン監督は演技指導者であるジュディス・ウェストンのセミナーの中で“よく描かれたキャラクターには共通して一本の背骨が通っていること”を学んだという。

「ウォーリーの場合は美を追い求め、『ファインディング・ニモ』の父親マーリンは子を守ろうとし、ウッディは持ち主である子どものために全力を尽くします。この背骨によって、必ずしも最善の選択ができるわけではありません。悪い面も突き動かす背骨を受け入れて、自ら制御できるように成長すれば、大きな分岐点を超えることができます」

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