『最高の教師』松下洸平の甘く優しい表情の虜になる 不穏な空気の“灯火”としての存在感
1年後の卒業式の日に自分が生徒から突き落とされることを知りつつ、“2度目の1年間”を過ごしている教師・九条里奈(松岡茉優)と生徒たちの姿を描いた『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)。里奈はなんとか1年後の“Xデー”を回避しようと行動している。
だが、それもなかなかすぐにはうまくいかない。確かに鵜久森(芦田愛菜)、瓜生(山時聡真)や眉村(福崎那由他)など、心が少しずつ通うようになってきた生徒は増えているが、里奈には優等生の阿久津(藤﨑ゆみあ)と東風谷(當真あみ)を発起人とした担任変更の嘆願書が提出され、自宅謹慎が言い渡されてしまう。最終的に鵜久森の行動によって、阿久津と東風谷は嘆願書を撤回。里奈にとっても、“仲間”が増える形にはなった。里奈を取り巻く状況は1回目とは明らかに変化してきているが、今のところ彼女が分かっているのは「自分が来年には死ぬ」ということだけ。こうして行動していることがどんなふうに作用してくるのかをどこまで予測できているのか。それが分からないため、いつもどことなくザワザワした気持ちを抱いてしまう。
そんな中、最初に里奈との関係性にはっきりとした変化が見られたのは、夫の蓮だ。1回目の時は里奈に突然、離婚を迫ってきた蓮。そのため、ふたりの関係はすでに冷え切ったものなのかと思っていた。しかし、里奈に対する蓮の態度は淡々としているが、言葉の端々には優しさや温かみのようなものが感じられた。例えば里奈が瓜生のためのお金を工面しようとふたりの貯金を使っていいか尋ねた時、蓮は怪訝そうな顔をしながらも「分からないけど分かった」と了承しただけでなく、「俺も歯ブラシ買い換えていい?」と茶化した。この深刻になりすぎない蓮の様子に里奈はきっと心救われただろう。
この蓮を演じているのが、前クールに放送された『合理的にあり得ない ~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ・フジテレビ系)に続いて連続ドラマにレギュラー出演を果たしている松下洸平。『合理的にあり得ない』ではクセのありすぎる上水流涼子(天海祐希)に負けず劣らずの存在感をみせ、上水流を演じた天海とのテンポの良い掛け合いも見事にこなしていた。コメディ感のあった『合理的にあり得ない』とは異なり、本作は盛り上がる部分が少なく、終始不穏な空気が流れているが、それでも松下の存在感が消えることはない。むしろそんな雰囲気だからこそ、そこに馴染みながらも空気感をさらりと変えてしまう松下の演技が光るのだ。