最高にロマンチックで感動! ピクサー新作『マイ・エレメント』は大人にこそ刺さる
ただ、恋愛以上に刺さるのが、エンバーと両親の関係性である。移民1世で、子供の頃から親の雑貨屋を受け継ぐことが当たり前とされて育ったエンバー。だから、本当のところ自分が将来何をしたいのか、聞かれたこともないし考えたこともない。それでも漠然と「私はこれでいいのだろうか」という抵抗感を、親を大切に思う気持ちとともに抱える彼女の葛藤は、やや個人主義的な欧米人よりも家族のつながりや伝統を重んじるアジア圏の観客に刺さる。家族に愛されながら自由にのびのび生きてきたウェイドに「自分が本当にやりたいことをやりなよ!」と言われても、そもそもそれができるような環境にないエンバーの「簡単にそういうこと言わないで!」というセリフは、現代の映像作品において取り沙汰されるべき“叫び”だ。
監督のピーター・ソーンは韓国人の移民一世としてブロンクスに生まれ、ニューヨークシティで育った背景がある。彼自身、本作を両親に捧げたように、この映画は親子を含む“分かり合えなさそうな者同士”が立ち止まってお互いをゆっくり見つめ、言葉を交わすこと……「人と人が触れ合うこと」を慈しみ、喜ぶ感情で溢れている。
エンドロールで流れる日本版の主題歌であるSuperflyの「やさしい気持ちで(マイ・エレメントver.)」は、よくこんな映画の内容にマッチした曲があったものだと感心してしまうくらい、作品のテーマを追体験できるようになっているので、最後まで席を立たずに堪能してほしい。同時上映の短編『カールじいさんのデート』も、デートに誘われたカールじいさんがデートに行くまでのてんやわんやとした準備や感情を描くセンチメンタルな作品で、『マイ・エレメント』に通じるものがある。ピクサーの作品といえば“深良い”みたいなことが評価される中で、比較的わかりやすい本作は、“ベタな恋愛映画”と言われるかもしれない。しかし、コロナ禍を通して、誰かと触れることを躊躇してしまったあの頃の気持ちや、恋を知り始めた時にどうしたらいいかわからなかった10代の気持ちを反芻させてくれるこの映画の、そのベタな温度感がとても心地いいのだ。
■公開情報
『マイ・エレメント』
全国公開中
監督:ピーター・ソーン
プロデューサー:デニス・リーム
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/my-element