『らんまん』が繰り返し描く“すべてのことは表裏一体”であること 万太郎が放つ無垢な“毒”

「万さんと出会えなければ、僕はきっと植物学がこんなに楽しくなかったし、頑張れなかった。万さんが大学に来てくれてよかった」

 波多野(前原滉)が、万太郎(神木隆之介)と出会えた喜びを噛みしめながら語る。『らんまん』(NHK総合)第17週「ムジナモ」は、これまで万太郎が「信頼」を拠り所に築き上げてきた人との「和」、そして万太郎が知らぬ間に周りに及ぼしてきたポジティブな“波動”が、しみじみと伝わってきた週だった。

 大学や学会で巻き起こる「名付け戦争」に疲れ果てて休学した藤丸(前原瑞樹)は万太郎に勇気づけられ、彼の植物採集の旅に同行し、自分が極めたい研究対象「変形菌」を見つけて帰ってきた。

 十徳長屋の隣人、ゆう(山谷花純)と福治(池田鉄洋)は、万太郎が「クサ長屋」と呼ばれる薄暗い住処に初めてやってきてから、これまでの日々を振り返る。万太郎は、長屋の日陰に生い茂り、臭い臭いと忌み嫌われた「ドクダミ」も、煎じれば薬になり、傷口に当てれば湿布になるのだと教えた。ドクダミは、ゆう、福治、倉木(大東駿介)ら、長屋の住人たちの来し方をも暗喩しているようで、それまで自らを世間の鼻つまみだと思ってきた彼らも、笑って生きていい、胸を張って生きていい、幸せを求めていいのだと気づかされた。

 「知らず知らずのうちに周囲を笑顔にしてしまう主人公」。字面だけ読めば、まるで朝ドラ主人公のテンプレのようだが、それをごく当たり前に、自然にやってのけるのが万太郎なのだ。彼が“天真爛漫”なまま得てきた「信頼」は、長屋や大学の仲間からのみならず。気づけば我々視聴者も、すっかり万太郎に心を預けてしまっている。「万太郎ならそうするだろう」「万太郎のそばにいたら、周りの人はこうなるだろうね」といった具合に。ひとえにそれは、ひとりひとりの人物の「生」を精彩に描いた、作劇の巧みさゆえだろう。

 万太郎の「おかげ」があれば、当然、万太郎の「せい」もある。光の裏側には必ず陰がある。田邊(要潤)の心中では目下、「槙野万太郎が現れた『せい』で」との思いが燃えたぎっているのが見てとれた。田邊のはからいでムジナモの論文を著した万太郎だったが、田邊と共著の扱いにせず、単著として発表してしまった。これをきっかけに田邊は激昂し、万太郎の東大への出入りを禁じるのだった。さらに、万太郎が作成した土佐植物目録と、標本500点を大学に寄贈するように命じた。しかし、名前の記載がなかったことは理由の一端であり、思うところは他にもありそうだ。

 かつて、恩師・池田蘭光(寺脇康文)が幼き日の万太郎に、自然は人にとって優しくも厳しいのだと説いた。この物語は、「すべてのことは表裏一体である」と、繰り返し描いている。

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