『君たちはどう生きるか』の超越した世界を観て 宮﨑駿が“ファンタジー”に回帰した喜び
ファンタジーをつくれない、つくってはいけないと語る理由は、『ポニョ』で無邪気に描かれた津波の描写が結果的に2011年3月11日の東日本大震災の影響で発生した大津波を予見するものとなってしまったことが大きかったのではないかと思う。
また、『ポニョ』における海は母性の象徴だが、『ポニョ』を作ったことで宮﨑駿は、自作のファンタジー描写が、生まれる前に戻りたいという母体回帰願望と深く結びついていることに気づいてしまったからではないかと思う。
だからこそ、彼はファンタジーを封印し、戦時下の日本と向き合った『風立ちぬ』を作ったのだが、改めてもう一度、自分の中にある母体回帰願望に決着をつけるために、ファンタジーの世界に戻ってきたのだろう。
異世界で眞人を助ける炎を操る少女・ヒミは、眞人の母が少女化した存在だが、最終的に眞人が彼女とは別の出口を通って、現実に戻る場面が興味深かった。あの異世界は徹底的に他者が排除された眞人の心象風景に見えるが、同時に心理学者ユングが語る集合的無意識のようでもある。
ファンタジーは自分勝手な妄想ではなく、他者と繋がる時間を超越した世界なのだと、宮﨑駿が最後に信じることができたのなら、嬉しい限りだ。
■公開情報
『君たちはどう生きるか』
全国公開中
原作・脚本・監督:宮﨑駿
製作:スタジオジブリ
主題歌:米津玄師
©2023 Studio Ghibli