『らんまん』後半戦で描かれる栄光と挫折のアップダウン 史実から今後の展開を考察
ドラマではどんな展開になっていくかは分からないが、万太郎のモデルになった植物学者・牧野富太郎氏はその両方で成果を上げている。石版印刷の技術を自ら学び、26歳の頃に自費で最初の『日本植物志図篇』を出版。その2年後には、大久保三郎(大窪のモデルとみられる)と連名で研究成果の論文を発表し、「ヤマトグサ」は牧野氏が初めて命名した植物となった。
さらに翌年には江戸川のほとりにある用水地で見つけた水草に「ムジナモ」と名付けて発表したことで、世界にその名を知らしめることになる。プライベートでは妻・壽衛との間に第一子を授かり、ここまでは何もかも順風満帆。しかしながら、その後、牧野氏は公私ともに身を引き裂かれるような出来事に見舞われるのだ。
当然、東大の生徒でもない、ましてや小学校すら卒業していない彼が世間に持ち上げられることをよく思わない人物も出てくる。その最たる人物が、植物学教室の矢田部良吉教授だ。
田邊教授のモデルと思われる彼に植物学教室への出入りを禁止され、牧野氏は研究の拠点を失ってしまう。文献や資料にアクセスする手段を断たれてはどんなに珍しい植物を見つけたとて、それが新種かどうかを確かめる術がない。植物学者として致命傷を負わされたも同然だ。それでも負けじと『日本植物志図篇』を次々と出版していくが、自費なのでお金はどんどんすり減っていく。ドラマでは寿恵子が一生懸命やりくりしてくれているおかげでまだ何とかやっていけているが、これから本格的にひもじい生活に突入していくのだろう。そんな中で、家族との悲しい別れも牧野氏は経験している。
朝ドラはどこまで“モデル”に忠実? 『らんまん』万太郎と寿恵子の“フラグ”を考える
『らんまん』(NHK総合)第14週「ホウライシダ」は万太郎(神木隆之介)が寿恵子(浜辺美波)と結婚し、いよいよ植物学者としての道…
後半戦はこうした成功と転落のジェットコースターが待ち受けており、ラストにかけてどん底から這い上がっていく万太郎の姿が描かれると見られる。その強力なサポーターとして、注目したいのが植物学教室の徳永助教授(田中哲司)と、これから登場する岩崎弥之助(皆川猿時)だ。
最初こそ万太郎を拒絶していたものの、真剣に植物と向き合う彼の姿を見て心を動かされた徳永。生徒に厳しくも愛をもって接している彼が、万太郎が植物学教室を追われたことに胸を痛めないはずがない。
一方、弥之助は三菱財閥の創始者である岩崎弥太郎の弟で、やがて彼の跡を継いで2代目の社長となる男だ。寿恵子の叔母・みえ(宮澤エマ)の料亭に出入りしていることから、万太郎との繋がりを得る。実は、彼は万太郎と同じく土佐出身。同郷の万太郎が頑張っている姿を見て、弥之助もまた何らかの形で力になってくれるのではないだろうか。
福治(池田鉄洋)が言うように、万太郎は「ただ好きなものがあって、それしか見てない」主人公だ。植物にかける情熱には感心させられるが、人として未熟なところは多々ある。金色の道を彼がまっすぐ進めるのは、その道を走りやすいように舗装してくれる人たちが存在しているということ。だけど、誰もが感謝されるためにやっているわけではなく、心から万太郎を応援したいと思っているから。そんな言葉足らずの愛に育てられ、ぐんぐんと枝葉を伸ばす万太郎は最後にどんな花を咲かせるのだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK