『どうする家康』古沢良太脚本の独自性が詰まった瀬名の人物描写 “胸の弾む謀”が悲劇へ

 『どうする家康』(NHK総合)第24回「築山へ集え!」。家康(松本潤)は、瀬名(有村架純)と信康(細田佳央太)が各地に密書を送り、武田方をはじめ多くの者が築山を尋ねていることを知る。苦悶の末、数正(松重豊)らと共に築山へと踏み込んだ家康を、瀬名は待ち構えていた。家康は、瀬名が内々に進めていた途方もない計画を知ることになる。

 兵を集め、築山へと突入した家康を、瀬名と信康は迎えるように待っていた。2人の表情には、家康らの来訪を恐れる様子もなければ、その場を取り繕おうとする様子もない。彼らを迎え入れる瀬名のまっすぐなまなざしに、むしろ忠次(大森南朋)と数正がたじろいでいたほどだ。家康らの前には武田方の穴山梅雪(田辺誠一)と千代(古川琴音)が現れるが、梅雪は「確かに拙者、奥方様をたぶらかすつもりでここに参りました。……が、逆にたぶらかされたのは拙者の方でございまして」「どうか、奥方様のお考えをお聞きくだされ」と丁重な姿勢を見せる。

 瀬名の計画は、国々がつながりを持ち、奪い合うのではなく与え合うこと、そしてそれらの国々が同じ銭を使い、商売を自在にし、人と物の往来を盛んにすること、武力で制するのではなく慈愛の心で国同士を結び付けることだった。瀬名のもとへ訪れた今川氏真(溝端淳平)はこの計画を「胸の弾む謀」と称していた。実際に、瀬名の計画に賛同した者たちの顔つきは明るい。「戦のない世を作る」という家康の夢を誰よりも理解し、誰よりも戦のない世を望んでいた瀬名が先導する計画への期待がそれだけ大きかったことがうかがえる。

「日本国が一つの慈愛の国となるのです」

 忠次と数正が度々忠告していたように、この計画は決して簡単なものではない。それでも瀬名は大切な家族を守るために命を懸けることを決めたのだ。家康を見つめ、「全ての責めは、この私が負う覚悟にございます」と告げる瀬名の、どこか厳かにも感じられる物言いからその覚悟が感じられる。「殿、左衛門尉に数正、そして五徳。どうか私たちと同じ夢を見てくださいませ」と頭を下げる瀬名の瞳は潤んで見えた。張り詰めた佇まいとその潤んだ瞳から、家康らがすぐに決断を下せないのは重々承知の上で、胸の内の全てをさらけ出したことが伝わってくる。

 「まことに……そなたは途方もないことを考える……」と感心する家康に、瀬名は穏やかな声色で「あなた様の中にもあったもののような気がします。初めて駿府で会った時から」と伝えた。家康は“己の弱い心”を瀬名に預けたことで、「戦のない世を作る」という夢を忘れかけていたのかもしれない。瀬名の言葉を受けてこれまでの出来事を振り返る前に見せた家康の表情はどこか泣き出しそうに見えた。その姿は見る人によっては弱虫だったり、泣き虫だったりするのだろう。けれど、戦で命を落とした者を思って涙を流し、できることなら戦いたくないと願う姿こそ、心優しい家康本来の姿だ。弱い心をそのまま受け入れてくれる瀬名の前で、家康は瀬名と同じ夢を見ることに決めたのだろう。家康とその家臣たちは、信長(岡田准一)の目をかいくぐりながら夢を叶えようとする。家康が家族とともに過ごす場面は、これまで以上に平穏で幸せなものに映った。

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