『らんまん』神木隆之介が体現する永遠の少年像 朝ドラの主人公が持つ“幼児性”の魅力

 朝ドラ『らんまん』(NHK総合)で神木隆之介が演じる主人公・槙野万太郎を見ていると、どうにも胸が高鳴り、気分が高揚してくる。東京で植物学の道を歩む生活が始まったから、というのもその理由の一つだが、彼の姿に心を動かされていたのは故郷である高知にいた頃から変わらない。彼は好奇心の塊のような、永遠の少年なのである。

 万太郎のことを幼少期から知っている人間からすれば何も驚くことはないが、放送がスタートして2カ月が経過するこのタイミングから視聴し始める人にとっては、彼は驚くべき存在として映るのではないだろうか。植物に関することを中心としたさまざまな知識を持っているが、ときにその言動は少年そのものである。自身の関心事を前にすると興奮するあまり周囲の者たちを圧倒し、置き去りにしてしまうこともある。同じようなことがお茶の間で起こっていても不思議ではないだろう。しかしここにこそ、万太郎の魅力、ひいては『らんまん』の魅力が詰まっている。

 先述しているように、彼の言動はまさに少年そのものだ。いっぽうの私たちはどうだろうか。多くの人が社会のシステムに取り込まれ、そこで設定されているルールを遵守しながら日常を送っている。もちろんこれが悪いことだと言いたいのではない。生きていくためには基本的にシステムに順応しなければならないし、ルールを守ることは他者を守ることにもつながる。しかしそうした日常の中で、私たちは子どもの頃に持っていたはずの視点を失っていく。万太郎のように、四つ葉のシロツメクサ(=四つ葉のクローバー)を見つけて大はしゃぎしていた時代が誰しもにあったはず。何でもないことで楽しくなり、ふいに謎の詩とメロディが降りてきて、人目もはばからずに口ずさんでいたのは私だけではないだろう。

 私はこういった幼少期特有の性質(=子どもらしさ)を、“幼児性”と呼んでいる。何かを夢中になって追い求める探求心、探究心の源泉にはこの幼児性があり、何かを創作する根の部分にもやはり幼児性がある。一般的に常識とされるものや凝り固まった思考回路から解放されることで、見えてくる景色がある。聞こえてくる音楽がある。映画監督や音楽家などのユニークな作品を生み出す者たちはもちろんのこと、博識な学者だってその言動をたどれば独自の幼児性を持ち続けている事実に行き着く。万太郎とはそんな幼児性の体現者なのだ。いつまでも若々しい視点を失わない彼からは学ぶべきところが多い。いや、“朝ドラの主人公たちから”、というべきかもしれない。

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