福山雅治だから成立した『ラストマン』の壮大な挑戦 皆実広見は令和の新たなヒーローに

「実におもしろい」

 彼の代表作『ガリレオ』(フジテレビ系)シリーズの湯川学先生の嬉々とした声が聞こえてきそうだ。

 現在放送中の日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS系)で福山雅治が演じている全盲のFBI特別捜査官・皆実広見。10歳の時の火災事故が原因で両目の視力を失っているが、鋭い分析力と、鋭敏な嗅覚、聴覚、触覚でどんな難事件もかならず終わらせることから、最後の切り札「ラストマン」と呼ばれている。この現実離れした難役に、福山は実に楽しそうに挑んでいる。

 まず、登場シーンが秀逸だった。機内で暴行事件が発生し、茨城関東国際空港に緊急着陸。相手に怪我を負わせた皆実が取り調べを受けている。

 声で相手の男の体格は想定できたが、目が見えないので組んでみて初めて格闘技経験者だと分かったこと。汗と息の匂いから、彼が覚醒剤を使用していると分かったこと。周囲から子どもの声が聞こえていたので、頸動脈を抑えて相手を一時的に無力化する判断をしたことなどを、皆実は独特な抑揚で、まくし立てるように説明する。

 このわずか2分間で、皆実は目が見えないが、嗅覚、聴覚や洞察力、判断力に優れている人物で、格闘技経験者にも対抗できる腕力を持っていることが分かる。トラブルにも動じず、取り調べ中にそばの出前を注文するほどに図々しく、なにより一筋縄ではいかない、変わり者であるらしいこと一気に示される。

 その後、チャーターしたヘリで警察組織の幹部、政治家らが待つ式典に降り立ち、バディを組む護道心太朗(大泉洋)にエスコートされてレッドカーペットを歩く。その颯爽たる姿は、まさに第1話のタイトル「新時代のヒーロー」の誕生にふさわしかった。

 このシーンをこれほどかっこよく演じられる役者はそうはいないだろう。“あの”福山雅治の、帰還を祝福するようでもあり、このドラマのスケールの大きさも予感させる幕開けだった。

 また、この派手な登場は、自分自身が目立つことで人を励ます存在になりたいとする皆実の姿勢の表れであると、のち(第4話)に明かされる。

 「多様性の時代にマッチした宣伝要員」と揶揄されながらも、それを受け入れ、ときに逆手に取る。自分にできることを提供し、できない部分は人に助けてもらう。それは皆実が、社会のために自分の力を発揮するには、目になってくれる人の助けが必要であると痛いほど分かっているからである。

 400ページ以上ある調書を4倍速以上で速聴し、遺体に触って死亡推定時刻をズバリと当てる。わずかに残った火薬やインクの匂いを嗅ぎ取り、音の反射で周りの環境を把握することができる。超人的なスペックを持っていても、一人では戦えない。だから、能力を持って力づくで認めさせようとはしない。人の助けを借りるために、例えば鑑識のヤジさんこと、矢島建夫(川瀬陽太)とキャバクラで仲を深めるような、人間味によって関係性を構築しようと努めている。

 第1話で「一人で勝手に突っ走ってヒーロー気取りがしたいなら、アメリカでやってください」と佐久良円花(吉田羊)に責められると、「一人でなんて無理です。佐久良班の皆さんが爆破装置を設置した犯人を捕まえてくれたおかげです。ありがとうございました」と素直に頭を下げることもできる。

 佐久良はこれを「人たらし」と評するが、まさにこの点がこれまでの孤高のヒーローとは違う、令和らしいヒーローの在り方であり、気がつけば私たち視聴者もすっかりたらし込まれている。

 だからといって、障がい者は助けてもらうだけの弱者ではない、ということも同時に強調されている。

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