杉本哲太、壊れた大人役も一級品! 『ペンディングトレイン』サイコおじさんは英雄に?
暴れる杉本哲太を見るのは楽しい。現在放送中の『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)で、主要キャラクターの中では最年長ながら最も壊れた大人・田中弥一を演じている彼の壊れっぷりを見ていて、その思いを新たにしてしまった。
突然サバイバルな状況に放り込まれたにもかかわらず、初めは「歯が痛い」という自分の窮状ばかりを訴え(しかも後で自力でその歯を抜いた)、突然「自由だ~!」と走り出し、皆がぐったりしている時間に「およげ!たいやきくん」をぼそぼそと口ずさみ、発見した水を独り占めしようとして萱島直哉(山田裕貴)に取り押さえられ、若者には「サイコやん」とあきれられ、「俺はもうあの電車を降りることにした」とひとり森の中に抜けだし……と、枚挙にいとまがないほどやりたい放題なおじさんを楽しそうに演じている。今のところ遭難者たちの中で、最もイキイキしているキャラクターなのではないだろうか。
実はその世界に来る前には、家族には無視され、会社では部下の尻拭いをさせられ、虚無な毎日を送る哀しいサラリーマンだったらしき描写があったが、第3話ラストで頭に花と一緒にネクタイを巻いた姿で登場した時には、『地獄の黙示録』か『ランボー』かと笑ってしまった。
彼はドラマも映画も膨大な数に出演してきたベテラン俳優だが、人によって、優しい父親やおちゃめなキャラクターの印象か、怖い、または悪いキャラクターの印象かが分かれるだろう。本人も「常に真逆の役を演じられたら面白い」と語っている通り、キャラクターの振り幅はかなり広い。(※)
2013年の『あまちゃん』(NHK総合)の面白い駅長や、2017年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK総合)での優しい父親役など愛すべき善い人を多く演じている。2016年のドラマ版『模倣犯』(テレビ東京系)では、主人公・前畑滋子(中谷美紀)の夫・前畑昭二を演じた。妻のルポライターとしての仕事を応援しながらも、事件が原因で妻が家族のことをかえりみないことに激高し、一度は離婚を切り出すが、クライマックスでやはり妻を守ろうとする夫は人間味に溢れていてぴったりだった。
2019年に『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK総合)で演じた、初めのうちは新しいものや考えを受け入れようとせず、オリンピックにも反対する頑固おやじ・永井道明や、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)シリーズの生真面目な検視官など、空気の読めない頑固キャラや、ちょっと困った人を演じている時のおちゃめな魅力も秀逸だ。
と、優しい人間を演じている彼ももちろん魅力的なのだが、一転『アウトレイジ』(2010年)をはじめとするコワモテを生かしたヤクザ役などの悪人を演じると、とんでもない迫力を生み出す。2023年の正月時代劇『いちげき』(NHK総合)の薩摩藩士・伊牟田尚平も、単純な悪人というわけではないが、主人公のウシ(染谷将太)たちから「バケモノ」と呼ばれるド迫力の剣の使い手役がハマっていた。
公開中の映画『ヴィレッジ』でも、逆らえない人たちに不法投棄を行わせ、村を影で牛耳っている極悪なヤクザを演じており、主人公の片山優(横浜流星)を言葉でなぶる場面はさすがの怖さといやらしさだった。
180cmの身長と常にアイラインが目の下にも入っているような目ヂカラ(下まつ毛もびっしり)、よく響く声などが相まって、怖さが倍増するのだろう。