『ルパンVS複製人間』は時代背景を知るとさらに楽しめる 屈指の悪役マモーが暗躍
TVシリーズ第1作の放送開始から半世紀もの間、アニメ界のエポック的キャラクターとして今なお走り続けている『ルパン三世』。その人気を決定づけたのは、1977年から1980年の3年にわたって高視聴率を稼いだTV第2シリーズだろう。放送期間中に2本の劇場用長編が制作されたが、その第1作が『ルパン三世 ルパンVS複製人間(クローン)』(1978年)である。映画の正式タイトルは『ルパン三世』だが、後のビデオグラム化に際して副題が付けられている。自身の細胞から作り出したクローンを何世代も生み出すことで生きてきた複製人間マモーは、不老不死の鍵となる賢者の石を手に入れようと企む。自分の(クローン体の)絞首刑が行われたルパンが、神を自称するマモーと対決するのが本編の大筋だ。
本作は70年代の映画でありながら、生物の細胞からオリジナルそっくりのクローンを作るという、当時としては随分SFじみた設定を根幹に置いている。2020年代の現代でこそクローン技術は珍しくないが、お茶の間向けに口当たり良く作られていた第2TVシリーズと並行して公開された作品と考えれば、かなりハード路線を目指していたのが分かる。また、同一細胞のクローン製造を続けた結果、粗悪な複製体が生まれることで、マモーの生への執着と哀しみも描かれている。遺伝子情報の劣化で、皺くちゃなマモーの失敗作が出来ることも、「コピーを重ねると像がぼやけてくる」と観客に分かりやすい台詞で語られてる辺りも見事な脚本だ。
ひとえにマモーの怪人物ぶりも、尊大な人物像の陰に憐憫の情を抱かせる芝居も、声を演じた西村晃の優れた演技力に支えられている所が大きい。西村晃は本作以前にも吹替仕事の経験があるが、ルパンと対等に渡り合う悪役キャラの演技として申し分ないほどの迫力を見せている。“仮装パーティー”を「パーテー」と発音しているのは御愛嬌。よく録り直さなかったものだ。マモーのモデルは、ブライアン・デ・パルマ監督作『ファントム・オブ・パラダイス』(1974年)に登場するスワンを演じたポール・ウィリアムズと言われている。マモーのキャラクターは『ファントム・オブ・パラダイス』のスワンをかなり意識しているので、興味のある方はご覧になられたい。
この作品は、映画ならではの話題作りもあろうが、およそアニメ映画に出るとは思えない人々が声優として参加している。まず本作の主題歌「ルパン音頭」を歌っている演歌歌手の三波春夫。冒頭に登場するエジプト警察署長を演じているが、銭形警部こと納谷悟朗を向こうに意外に上手い芝居で驚かされる。そして電話を通じた会話音声のみだが、漫画界から赤塚不二夫と梶原一騎。『ルパン三世』の作品世界で、この2人が硬直した会話をしているというだけでも面白い。ベテラン勢も負けておらず、銭形の日本での上司・警視総監役の富田耕生、マモー配下の大男、フリンチ役の飯塚昭三など、大御所声優も短い出番で強い個性を発揮している。テレビアニメ創世記から多くの作品に出演している大平透も、アメリカ大統領特別補佐役で、洋画吹き替えのようなリアルで落ち着いた演技で魅せてくれる。だが何といってもルパン役の山田康雄をはじめとしたレギュラー陣が圧巻だろう。峰不二子役の増山江威子を除き、出演者の大半が既に故人だ。現在、2代目を引き継いで好演しているメインキャスト陣はもちろん最高に良いが、数年おきにテレビ放送される長編作品を通じて初代声優陣のプロの技を楽しむのも格別だろう。