『らんまん』神木隆之介がまたも歴史上の偉人と出会う 竹雄と綾に漂うロマンスの空気

 自由の響きに心引かれるのは、知らないうちに何かに縛られているからだ。『らんまん』(NHK総合)第19話で万太郎(神木隆之介)はある人物に引き合わされる。

 早川逸馬(宮野真守)に政治結社「声明社」のたまり場に連れてこられた万太郎。そこには血気盛んな同志が集まっていた。酒を酌み交わし、大広間に雑魚寝する人々に万太郎は驚く。それを見た逸馬は万太郎が恵まれていると指摘。「虐げられたことがある者は恨みを忘れん。何の痛みも知らん者だけがのんきでおれる。のんきというがはそれだけで傲慢じゃ」と逸馬。万太郎も「わしは傲慢かもしれん」と認める。続く言葉は悲痛な響きを帯びていた。「けんど、わしはあの家に生まれたばっかりに道を選ぶこともできん」。逸馬の「自由になりたいか」という問いかけに万太郎は「はい」と答えた。

 その頃、竹雄(志尊淳)と綾(佐久間由衣)は高知の街を歩いていた。タキ(松坂慶子)から万太郎と結婚するように言われ、峰屋を飛び出してきた綾。すがるような思いで会いに行った幸吉(笠松将)には家族がいて、自身の願いが一方的な思い込みにすぎなかったことを知らされた。

「幸吉のことらあ何も知らんまま、自分が酒を造りたいばっかりに。なんて強欲ながじゃろう」

 後悔と自己嫌悪にまみれる綾を、竹雄はかばうようにそっと背後で見守る。竹雄は「欲がない人らあ、おりますか? 誰かを手に入れたい。そばにおりたい。そう思うことは、生きちょったら当たり前のことでしょう。綾様の欲は前に向かうための力じゃ」と語りかけた。

 傷心の綾を励まそうとして発した言葉は、同時に竹雄自身も肯定しているようだった。本心を口にしそうになって押しとどめた竹雄に、微笑で返した綾はきっと相手の思いに気づいていた。そこからは主家と奉公人に戻って、綾も平静の空気になる。ロマンスの予感が泡のように消えた夜に、綾は竹雄の手を引いて踊りの輪に入った。踊りは心と体が自分自身のものだと思い出させ、綾と竹雄を隔てるものを忘れさせてくれた。

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