『水星の魔女』“裏主人公”グエルがどん底から這い上がる それぞれの父と子の関係性
ようやく“ガンダムらしい人間関係”が描かれた。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の第15話「父と子と」では、裏主人公と囁かれていたグエルが大活躍し、ファンを大いに沸かせた。
※本稿には『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第15話のネタバレを含みます。
第15話の主な舞台は地球。そこには平和とは程遠い、低い生活水準で暮らしている人々の姿があった。ほんの一瞬ではあるが、掲示板のようなものに「Save your food, save the Earth」(訳:食料を守り、地球を救おう)や「Infectious disease prevention measures」(訳:感染症予防対策)といった文言も見られ、地球が置かれている経済状況の厳しさを印象付けるとともに、スレッタらスペーシアンの優位性が強調されている。卑劣なテロリストとしてここまで描かれていたフォルドの夜明けだが、その実体は難民キャンプを拠点にした脆い基盤の上に成り立っていた脆弱な組織であった。
プラント・クエタ襲撃事件では多くの損害を引き起こした張本人なだけに、どのくらいの戦力を保持しているのかと思いきや……少々買い被りすぎだったのかもしれない。だが、その裏にはシャディクの暗躍がある。シャディクの目的は宇宙開発事業の莫大な費用を裏で支えている戦争シェアリングの構造を破壊すること。戦争シェアリングとはここまでの話を整理すると、スペーシアン同士で戦争をする際に、搾取の対象である地球に存在するそれぞれの勢力に兵器や物資を供給し、代理戦争を絶えず行い続け、戦況をコントロールすることと言えそうだ。この中心的存在なのがベネリットグループだ。そして半アーシアンの孤児であるシャディクはこの構造自体を壊し、地球と宇宙の武力を対等にするという狙いがある。シャディクの言い分は十分に理解できるものの、もし今の状態で地球側が大きな武力や資金を手にすることがあれば、全面戦争に発展するのではないだろうかという懸念も拭えない。
ベネリットグループの地球駐留部隊とフォルドの夜明けの戦闘が激しくなる一方で、オルコットに捕虜として囚われたグエルが久しぶりに登場。序盤のシーンでオルコットに無理やり食料を口に詰め込まれるシーンはなんとも言えない酷さがあった。そしてSeason1で見せていた勇ましいグエルの姿は一切なく、便器の上で拘束されたままブツブツとつぶやいたまま憔悴しきっている。それもそのはず、プラント・クエタ襲撃事件で父親のヴィムの命を奪ってしまった、その喪失感は彼にとっては大きなものだったのだ。シーシアと対峙した際には「何で、父さんじゃなくて俺なんだ……俺が死んでいれば、父さんは……」と後悔の念に駆られるも、父親を失ったシーシアにとってはもう全て終わってしまったこと。シーシアがグエルに向ける憎しみも十分に理解できる。