『らんまん』神木隆之介が顔で笑って心で泣く 宮野真守&島崎和歌子がもたらす新時代
万太郎(神木隆之介)が東京から高知に帰ってきた。浦戸の港に降り立って早々、道端に咲く草に挨拶する万太郎。迎えにきた綾(佐久間由衣)に「先にこっちやろ!」と注意される姿はいつもと変わらない。だが、その胸の内には複雑な思いが巡っていることを長旅に同行した竹雄(志尊淳)だけは知っている。
万太郎にとって心躍る出会いが描かれた前週とは打って変わり、『らんまん』(NHK総合)第4週は何かズンと重たいものが乗っかったような走り出しとなった。画面も全体的に暗く、どんよりとしている。原因を考えてみたら、今回は圧倒的に“緑”が少ないのだ。それもそのはず。万太郎は人知れず、植物の研究に別れを告げていた。
峰屋に戻った万太郎は早速、タキ(松坂慶子)や従業員たちをひと所に集めて品評会の報告をする。良い評価がもらえるもらえないにかかわらず、自分たちが作ったお酒をあの場に出品し、全国津々浦々から集まった人々に飲んでもらえたことに誇りを示す万太郎。そうして従業員たちの日頃の頑張りを労い、さらに「皆の衆、ますます気張って参りましょう!」と力強く鼓舞する彼はまさに理想の当主といえよう。そんな願ってもいなかった万太郎の変化にタキも驚きを隠せない。
しかし、あれだけ家業に興味を示さず、植物の研究に没頭していた万太郎がちょっと旅に出たくらいで変わるとはタキには到底思えなかったのだろう。あえて草の方はどうだったのか、と尋ねると万太郎からは意外な答えが返ってくる。
「植物学は今は異国の黒船だらけで、この国はまだほんの赤子。もうヨチヨチやりゆうだけでした。あまりに情けのうて嫌いになりました」
そんなのは嘘、大嘘だ。竹雄も私たちも、“心の友”と慕った植物学者の野田(田辺誠一)と里中(いとうせいこう)に出会い、彼らの研究に見たこともないほど目を輝かせていた万太郎を知っている。好きなものを嫌いと言わねばならないその胸はどれほど痛かったことだろう。まさに“顔で笑って心で泣く”をそのまま体現する神木の演技にこちらまで胸が苦しくなった。
やはり、竹雄の「若はわしらを捨てるがですか」という一言はかなり効いたのだろう。それは万太郎に、自分が今までどれほど峰屋のこと、ひいては一生懸命尽くしてきてくれた従業員たちのことを蔑ろにしてきたか、を気づかせるものだった。東京で買ってきた大量のお土産は罪滅ぼしの意味も大きいのではないだろうか。かたや、自分のために買った顕微鏡は押入れの奥深くに仕舞い込む。