演じることにかける想いは強いものの、死体役ばかりをあてがわれる男・吉田広志。彼を通して理想と現実の折り合いをつけることの難しさ、そして“生きることと死ぬこと”という、深遠なる問題を描き出す映画『死体の人』が現在公開中だ。

　本作の構想が生まれたのは15年以上も前、監督の草苅勲の役者経験時代。主人公の広志役を演じた奥野瑛太は台本を読んで「吉田広志は草苅監督」という印象を持ったと話す。広志が運命的な出会いを果たす、自宅に招いたデリヘル嬢・加奈役の唐田えりかと奥野に、本作を通しての“俳優あるある”な話を聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

役者を客観的に見つめる機会に

ーー奥野さんは今回ご自身と同じ“役者”を演じたわけですが、不思議な体験だったのではないでしょうか？

奥野瑛太（以下、奥野）：変な仕事だなって改めて思いました。広志はいろんな死に方をして、その都度生き返っては私生活に戻って、また行っては現場で死んで……。普段、似たようなことをやっているので、「あ、そうだよな、傍から見たらこれ結構コミカルで面白いことだよな」ってなんとなく客観的に見つめる機会になりました。

ーー唐田さんは奥野さん演じる広志を見ていてどう思いましたか？

唐田えりか（以下、唐田）：私は奥野さんからとても刺激をもらった現場でした。奥野さん自身が広志になっていて、見ていてその境目がなくて。役との向き合い方が本当にまっすぐで、勉強になりました。

奥野：こちらこそです。僕自身は台本をいただいたときから「吉田広志は草苅監督」という印象がありました。草苅監督とお会いする前から、台本を読んでいる最中にずっと監督の顔が浮かんでくるんです。この作品は、監督が自分のパーソナルなところをもう一度振り返って、おもしろおかしく、そして明るく、前向きに向き合って出来た台本だなと思っていました。だから、「そんな監督の前で吉田広志をやりたくない！」って思っていたぐらい（笑）。なので、一緒にやっているときに、監督に「演じてもらっていいですか？」って言っていた姿を、恥ずかしながら唐田さんに見せているんですよね。

唐田：言ってましたね。

奥野：他の現場では絶対しませんけど、「ちょっとわからないので監督やってもらっていいですか？」ってかなり意図的に、今回はやらせていただきました。どうしても吉田広志を監督がやっている姿を見たくて、そんな贅沢な経験をさせてもらいたくて頼み込みましたね。だからむしろ唐田さんを困惑させてしまったなと。

唐田：全然そんなことなかったです！

ーー唐田さんは加奈の役を演じてみてどうでしたか？

唐田：子どもを持つということがきっかけで、人が強くあろうと変わろうとするのを、演じながら感じました。それは私にとって初めてで、すごく不思議な体験だったなと思います。

ーー奥野さんから見て加奈のキャラクターはどうでしたか？

奥野：まさか唐田さんがやるとは思わなかったので、ドキッとしました。いざ現場で対峙すると、唐田さんの気持ちがストレートに伝わってきて。その素敵なエネルギーに気押され、本当にいい作用というか、元気をもらっていましたね。唐田さんは、こんなに優しく物事を見つめているんだといういいエネルギーを感じました。

唐田：嬉しいです。

ーー劇中の広志のように、自身の実体験や見たことが芝居に生かされた経験はありますか？

奥野：よく言いますよね、犬が死んじゃったときを思い出して泣くとか。僕はそういうことができなくて……。

唐田：私もできないです。

奥野：できないよね。変な話、自分の実体験を照らし合わせて泣くみたいなことが全くできない。むしろ、役がどうにかなっていって、その気持ちが認識できないレベルまで達して、気づいた瞬間に泣いてしまっているというか……泣きたくなくても泣いちゃってる、その瞬間を捉えられたなという感じです。今までその役柄で演じてきたのに、急にここだけ、「あの犬のことを思い出して泣こう」としたら、むしろ泣きながら犬の名前を言っちゃうかもしれない。でも、身につまされることはありました。広志みたいに、実家の母親と父親がなんとなく見守りながら、僕が出演したドラマを観て「どこに出てるの？」って今も言ってくれているので。電話の向こうではあんな顔しながら、「ああ頑張ってるのね」みたいなことを言ってるんだなって。そこはその都度リンクするところがありました。

唐田：私も割と芝居の中で感じられないと感情が動けないところがあります。でも、今まで生きてきた中で、例えば自分の中であのときの怒りの感情とか悔しい感情とか、ちょっとでもリンクした瞬間というのもあったりして。自分と役と両方で出ることもあります。