『BLUE GIANT』最重要ファクターである“音”の力 上原ひろみらプロの技が成し得た映像化
登場人物の演奏を「演じる」
レコーディングにおいても、様々な創意工夫が施されている。例えば、劇中で雪祈は、アップライトピアノ、ベビーグランドピアノ、フルコンサートグランドピアノという3つのピアノを弾いており、それぞれの演奏シーンの収録においては、実際にスタジオに3種類のピアノを用意して弾き分ける形でレコーディングを行ったという。それだけではなく、例えば、「TAKE TWO」のアップライトピアノについては、「大体月に1回ぐらい調律が入るイメージで」と調律師にオーダーしたというエピソードもあり、一つひとつの音について細部へのこだわりを追求する上原の姿勢が窺える。
また、レコーディング時においては、特に、サックス担当の馬場、ドラム担当の石若は、大、玉田のプレイヤーとしての特性や習熟度を踏まえた上で、ただ単に演奏するのではなく、登場人物の演奏を「演じる」必要があった。上原のディレクションによってレコーディングが進められていく中では、馬場が「もうちょっと下手に」「大ちゃんぽくない」とダメ出しを受けたこともあったという。また、今作の物語の冒頭においては、玉田はドラムを始めたばかりの初心者であり、石若は、そうした未完成なドラムプレイをスティックの持ち方を工夫することで表現してみせた。雪祈を含めたJASSの3人は、いくつものライブを通してそれぞれがミュージシャンとして(また、人間として)大きな成長を見せており、上原、馬場、石若は、そうした歩みに寄り添うようにして「演じる」ことに見事に徹してみせた。今作の音に、それぞれの局面で登場人物たちが胸に抱くエモーションや気迫、切実さが宿っていると感じられるのはそれ故だ。
最後に。この物語の映像化を検討する際、テレビアニメではなく映画というメディアを選択したのは、原作者・石塚の「実際のジャズのライブのように大音量で、熱く激しいプレイを体感してもらえる場所は映画館しかない」という考えがあったからだという。今作は、公開から1カ月以上が経った今も劇場で公開中だ。大音量の音響設備を備えた映画館だからこその、圧倒的な「ライブ体験」を、ぜひ上映中の間に味わってほしい。
参照
映画『BLUE GIANT』公式パンフレット
■公開情報
『BLUE GIANT』
全国公開中
出演:山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音ほか
原作:石塚真一『BLUE GIANT』(小学館『ビッグコミック』連載)
監督:立川譲
音楽:上原ひろみ
演奏:馬場智章(サックス)、上原ひろみ(ピアノ)、石若駿(ドラム)
脚本:NUMBER 8
アニメーション制作:NUT
配給:東宝映像事業部
©︎2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©︎2013 石塚真一/小学館
公式サイト:bluegiant-movie.jp