中国映画界の新たなる才能 チウ・ション監督作『郊外の鳥たち』に込められたメッセージ
監督は、「郊外の鳥たち」とは、サイアリア・スビルビウム(Sialia Suburbium)という、特殊な青い鳥のことを指していると説明している。この青い鳥とは、アメリカに生息する「ルリツグミ」類のことであり、都市郊外のエリアに住み着くようになった種たちは、電波塔の上に巣を作り、そこで生まれた雛鳥たちは、電磁波を受けながら成長するのだという。
経済圏の拡大や、急速な開発事業は、昔からある自然を潰し、ときに計画や作業の拙速さによって破綻し、打ち捨てられていく。そこで育っていく子どもたちもまた、そんな大人の事情に翻弄され、土地を去っていくことになる。利益を求め際限なく肥大しようとする街の広がりは、人間の暮らしを幸福にするのでなく、単なる欲得にかられた者たちによる無惨な結果なのではないか。そして、そんな世の中のひずみを象徴するのが「鬼城」であり、そこを彷徨う子どもたちの姿といえるのではないだろうか。
これは、もちろん中国だけの問題というわけではないだろう。「経済成長」を掲げて、地域経済を活性化させることが、あたかも唯一の正義かのようにいわれる日本の状況にも関係してくる話だ。チウ・ション監督がここで暗示しているのも、そんな時代の圧力への違和感であり、そのような価値観に市民全体を巻き込もうとする空気への否定的な目線なのだと考えられる。
そして、いまだ開発されていない森のなかで、幸福そうに眠る子どもたちの光景と、本作のラストカットの光景は、そういった時代の価値観から、一時でも解放された人間の安らぎを表現しているといえだろう。
周知の通り、現在の中国の政治状況は、日本と同じく混迷を深めており、若手監督の支援や育成があっても、作品のなかで強烈な社会批判や、ストレートな体制批判をおこなうのは難しいものと想像される。だからこそ、若い世代のクリエイターが、比喩的な表現を用いたり、複雑な構造を好むのは、そういった世相に合わせたものなのだと解釈することができる。
社会と芸術表現は、必ずどこかで結びつき、社会状況は表現の内容に影響を与えるものだ。そして、表現は社会にも影響を与え得るものである。本作『郊外の鳥たち』のような、新しい世代の作品が、社会を、そして世界の状況を良い方向へと導いてくれることを、筆者は願っている。
■公開情報
『郊外の鳥たち』
3月18日(土)より、 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:チウ・ション
出演:メイソン・リー 、ホアン・ルー、ゴン・ズーハンほか
配給 : リアリーライクフィルムズ+ムービー・アクト・プロジェクト
提供 : リアリーライクフィルムズ
2018年/中国映画/114分/中国語/1:1.33/5.1ch/DCP・Blu-ray/字幕翻訳 : 奥原智子/英題:Suburban Birds
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