『アルマゲドン』は超一級の総合娯楽! 世紀末に狂い咲いた超大作を3つのポイントから解説
『アルマゲドン』の2つ目の魅力、それは役者たちの活躍である。ベイはアドリブに対して非常に寛容だ。面白ければ、それをそのまま採用する。ソフト盤の音声解説を聞いていると、主演のブルース・ウィリスやベン・アフレックの「ここはアドリブだね」率が非常に高い。序盤の石油プラントで散弾銃を持ったブルースがベンを追いかけるシーンでは、ベイやんはベンアフに対して「パンツ姿で何か叫べ!」としか指示しなかったという。もはや単なる無茶ぶりだが、力量ある役者たちが揃っていたので、ベイやんの無茶ぶり演出が奇跡的な化学反応を起こす。健康診断のシーンは役者たちが好き勝手にアドリブをかまし、政府への要望リストも役者が書いたものがそのまま採用された。その結果、前半パートの愉快さは倍増し、後半からのシリアスな展開が際立つようになっている。ちなみにクライマックスの別れのシーンで、ベンアフが感情を爆発させるのも、実はベンアフの提案だったという。『アルマゲドン』の名シーンの数々は、こうした役者たちの力に支えられている部分も大きい。
“映え”を優先して爆走する監督と、無茶ぶりに応える俳優たち。現場は混沌の極みだったようだが、それでも本作が一本筋の通った作品になったのは、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーの力だろう。ここが『アルマゲドン』の3つ目の魅力だ。本作は「とにかく観客を退屈させない」「とにかく観客を楽しませたい」こうしたサービス精神が徹底しているのだ。ブラッカイマーといえば、『トップガン マーヴェリック』(2022年)でも辣腕を振るった業界の大物である。彼は起承転結を重視して、物語の主軸と魅力がどこにあるかを見極めていた。そのうえでストーリー部分には、かなり口を出したという。
たとえばベン・アフレックとリヴ・タイラーがアニマルクラッカーでイチャイチャするシーンがあるが、これは「少年少女のためにも、ラブシーンが必要だ!」となって、撮影後半に追加で撮影されたものだ。このシーンを観たNASA職員役のビリー・ボブ・ソーントンは「俺とブルースの映画のはずが、『タイタニック』になったな」と苦笑していたという。もちろんシビアな決断を下す場合も多かったらしく、一時期は何とベンアフ周りのシーンをカットすることも考えていたという(逆にいえば、ベンアフが主役級に目立てているのは、ベンアフ自身の努力なのである)。観客を熱狂させるためなら何でもする。逆に観客のテンションが下がることは決してやらない。この娯楽至上主義というべき絶対的な屋台骨があったからこそ、ベイやんは“映え”に熱中して爆走しても、役者たちがアドリブをかましまくっても、『アルマゲドン』は娯楽作品として揺らがなかったのである。
映画は総合芸術だと人は言う。私もそう思う。映画には、役者・脚本・演出・美術・撮影・特殊効果……成立させるには様々な要素が必要だからだ。『アルマゲドン』は、決して芸術的な映画とは呼ばれないし、作った本人たちもそんなことは望んでいないだろう。ポップコーンを片手に、泣いて笑って、楽しんでほしいという一念で、監督は吠え、俳優は無茶ぶりに応え、プロデューサーは現場のコントロールに悪戦苦闘し、そして何千人ものスタッフが頑張ったのである。面白い映画を作りたい、その想いがパンパンに詰まっているからこそ、公開当時に大ヒットして、こうして時を超えて愛されているのだ。いわば『アルマゲドン』は、超一級の総合娯楽なのである!
■放送情報
『アルマゲドン』
日本テレビ系にて、3月17日(金)21:00~22:59放送 ※放送枠5分拡大
監督:マイケル・ベイ
製作:ジェリー・ブラッカイマー、ゲイル・アン・ハード、マイケル・ベイ
脚本:ジョナサン・ヘンズリー、J・J・エイブラムス
出演:ブルース・ウィリス、ビリー・ボブ・ソーントン、リヴ・タイラー、ベン・アフレック、ウィル・パットン
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