『アントマン&ワスプ:クアントマニア』が暗示する、フェーズ5以降のMCUの展開

 また、そんな『ロキ』でも暗示されていたのが、本作でアントマンの前に立ちふさがり、今後アベンジャーズにとってサノス以来の脅威になると考えられる、強大なヴィラン、征服者カーン(ジョナサン・メジャース)の存在だ。このヴィランは、手強い戦闘力を持っているだけでなく、時空を超越する力を持っている。

 2025年には『アベンジャーズ/ザ・カーン・ダイナスティ(原題)』が公開されることが予定されているが、そのタイトル「ザ・カーン・ダイナスティ」が“カーン王朝”を意味するように、ここでは、これまでにない大規模なスケールで、ヴィランが君臨する姿が見られるのではないか。アベンジャーズはおそらく苦戦を余儀なくされ、われわれはまたしても、ヒーローたちが敗れ去っていく姿を目の当たりにすることになるかもしれない。

 気になるのは、カーンという存在が、現実のどんな脅威を描くことになるのかということだ。これまでMCU作品がフレッシュなシリーズとして楽しめていた大きな理由の一つは、荒唐無稽といえる内容が、どこかで現実の状況と繋がっていたという点である。

 例えば『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)を通してスパイダーマンが戦っていたのは、“フェイクニュース”による炎上という現代的なものだったし、ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』では、女性を憎悪する男性たちによる嫌がらせが主人公を苦しめるという、何ともリアリティのある描写が見られたのだ。

 そう考えれば、昨年より勃発した、ロシア軍によるウクライナ侵攻と、核戦争のリスクという、予想を超えたシリアスな状況が、間接的に今後のMCUのテーマのなかに紛れ込んでこないわけがないのではないだろうか。なぜなら、MCUはこれまでも、現代において何が“脅威”で“悪”なのか、何が“正義”なのかという問題を突きつめてきたからである。

 これまでの『アントマン』シリーズは、娘のキャシーやホープのためという、スコットの周囲の小さな範囲を優先させて戦ってきたように、本作『アントマン&ワスプ:クアントマニア』でも、それらを含んだ“ファミリー”という身近な存在を助けるための戦いが展開する。だが、本作の成長したキャシーは、もっと広く社会正義のためになる戦いをするべきだと主張し、スコットの心を動かしていく。

 スケールの小さな男が、身の回りの人を守ろうと体を張るのが、これまでの『アントマン』シリーズの良さであり、味わい深いところだった。だが本作では、家族やパートナーとの幸せを投げ捨てても、より多くの人々や世界のために、ギリギリまでカーンと対峙する、より大きなアントマンの姿が描かれるのが感動的だ。いままでのヴィランとは格の違うカーンと渡り合うことができたのは、このアントマンの変化にあったのではないか。

 とはいえ、スコット・ラングのヒーローとしての決定的成長が描かれてしまったことで、ポール・ラッドが演じるスコットの物語は、終焉へと近づいたように思える。その後、キャスリン・ニュートン演じるキャシーが、スコットの跡を正式に継ぎ、アベンジャーズに加入することになるかもしれない。今後のカーンの動向とともに、『アントマン』シリーズの世代交代の行方も気になるところだ。

■公開情報
『アントマン&ワスプ:クアントマニア』
全国公開中
監督:ペイトン・リード
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ポール・ラッド、エヴァンジェリン・リリー、マイケル・ダグラス、ミシェル・ファイファー、ジョナサン・メジャース、キャスリン・ニュートン、ビル・マーレイ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©Marvel Studios 2023

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