『夕暮れに、手をつなぐ』広瀬すずは忘れがたいヒロインだった 絶望が際立つ演技力
「忘れた。空豆のことは何も覚えてない」
音(永瀬廉)がそんなふうにいじわるな言葉で自分に言い聞かせなきゃならないほど、空豆(広瀬すず)は実に忘れがたいヒロインだった。
子どもと大人のちょうど中間にいるような2人が共にいた瞬間の美しさを切り取るドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)が、3月21日についに最終回を迎える。
2023年冬に宮崎の片田舎から上京してきた空豆。幼なじみとの結婚を夢見ていたに過ぎなかった彼女は未経験からファッションデザインの世界に入り、その才能を大いに開花させた。そして、音との夏を待たずして、今度はデザイナーとしての夢のために母・塔子(松雪泰子)とパリへ旅立つことになる。
この清々しいまでのシンデレラストーリーを「あり得ない!」と一蹴するのは簡単かもしれない。しかし、そうはできない吸引力をもって空豆という唯一無二のキャラクターをドライブしてきたのが広瀬すずだ。彼女が操る九州の方言がミックスされた“空豆語”だって、最初こそ正直違和感があったものの、今やもう聞けなくなることが寂しくなってきている。
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「広瀬さんの持つ生命力を発露させたかったんです」とは、本作の制作発表会見で脚本家の北川悦吏子が語った言葉。たしかに、これまで広瀬が演じてきた役柄は強い生命力を感じさせることが多かった。例えば、映画『ちはやふる』シリーズでは競技かるたの世界に魅せられた女子高生の綾瀬千早を演じた広瀬。上の句が詠まれた瞬間に素早く札を払い飛ばす身体能力の高さに驚かされるとともに、その全身から放たれる凄まじいオーラに鳥肌が立った。
“天才役”というのは非常に難しい。「あの子は天才だ」と何かしらの台詞で説明したり、その人が生み出した素晴らしいアイデアやモノを見せれば、一応のところは天才という設定を伝えることはできる。だが、観ている人が違和感を持った瞬間にその設定は破綻してしまうだろう。広瀬の場合はしっかりと過程の演技で納得させる役者だ。
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きっと人よりもかなり集中力が高いのだろう。空豆が響子(夏木マリ)のドレスをハサミで解体した時然り、NHK連続テレビ小説『なつぞら』においてヒロインのなつがアニメーターとして作業に取り組んでいる時もそうだが、演じる役が何かに没頭すると途端に広瀬から一切の感情が消え、場の空気が張り詰めるのだ。