『舞いあがれ!』舞と貴司の結婚式に満ちた祝福と涙 輝く夏の大三角と久留美に滲む寂しさ

 誰の気持ちも置き去りにしない物語だから、一人ひとりのキャラクターが愛おしい。久留美と悠人にも、五島行きを決意した百花(尾本祐菜)とそれを喜ぶ一太(若林元太)にも、身長という壁を乗り越え、見事アメリカのアリゾナでパイロットになった由良(吉谷彩子)にも、同僚のフランス人パイロットと婚約した矢野(山崎紘菜)にも、幸せになってほしいと願わずにはいられない。

 まるで最終回のように、これまで登場した多くの人々が一堂に会した第97話。だからこそ、もう会えなくなった人の不在も際立つ。何か喜ばしいことがあった時、得てして人は「ここにあの人がいてくれたら」と思い、胸をチクリと痛めるものだ。思わず目を細めてしまうほどに美しい舞のウェディングドレスを見て誰もが思う。浩太が生きていたら、どれだけ喜ぶだろうと。

 梅津と岩倉という2つの名字が書かれた表札を勝(山口智充)と雪乃(くわばたりえ)がしみじみと見つめる。舞と貴司は岩倉家の一部をリフォームし、めぐみと同居することになった。結婚したからといって、舞がめぐみの手元を離れていくわけじゃない。それでもめぐみの目から涙が溢れるのはきっと、自分をひとりにしない方法を考えてくれた舞と貴司の結婚を一緒に喜んでくれるはずの浩太がそばにいないから。だけど代わりに、同じように若くして伴侶を亡くした祥子(高畑淳子)が一緒に祝杯をあげてくれる。

 本作が毎朝届けてくれる15分間には、嬉しくて寂しいという一見矛盾する2つの感情が溶け合う。舞たちがそれぞれ自分の道を見つけ出し、最終回が近づく今、私たちも嬉しくて寂しい。だけど、貴司が作る歌でこの物語と出会えた幸せも永遠に続いていくことだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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