『罠の戦争』は「戦争シリーズ」の総決算? 『半沢直樹』から続く復讐ドラマの10年

 そのこと自体は、復讐劇が悲劇に分類されることを考慮しても珍しいことではない。重要なのは観る側の反応である。社会の底辺にいる人間の復讐劇はヒエラルキー下位の人々を代弁する。私的な動機から出発した復讐が弱い立場の人間の無念を包摂し、復讐者は彼らの代表として悪を成敗する。こうした変化と軌を一にするように、2010年代後半の作品にはしばしば復讐代行者が登場した。『GIVER 復讐の贈与者』(2018年/テレビ東京系)、『タリオ 復讐代行の2人』(2020年/NHK総合)の主人公は、法的に禁じられる私的な復讐を生業とする者だった。

 これらにしても、時代をさかのぼれば『必殺仕事人』(テレビ朝日系)などに行き着くわけだが、個人の領域で決着していた問題に形を与え、制度化する欲望が顕著になったのが2010年代以降といえるだろう。実社会でも、著名人の不倫スキャンダルなど本来私的に解決される事件に一般の処罰感情が噴出した。『痛快TV スカッとジャパン』(フジテレビ系)はバラエティ番組だが、実在の出来事を再現ドラマで風刺して支持を集めた。持たざる者の不満が強まる世情を背景に、大衆は主観的な正義を執行する存在を求めていた。

 復讐者にモラルの代表者、階級闘争の側面が強くなることには弊害もある。下剋上には終わりがなく、目の前の敵を倒すと次なる敵が現れる。2020年の『半沢直樹』続編では俳優陣の顔芸がエスカレートし、歌舞伎さながらの見得の切り合いは様式美すら感じさせた。銀行内部の内輪もめから、IT、航空会社、政界を巻き込む疑獄事件に発展する内容は、同作が復讐ドラマとして臨界点に達していることを物語っていた。

 『罠の戦争』で国会議員秘書の鷲津亨(草彅剛)は、何者かに息子の泰生(白鳥晴都)を突き落とされる。鷲津は隠ぺいを指示した大臣の犬飼(本田博太郎)と黒幕に復讐するため政界の中枢に乗り込む。目的成就のために手段を選ばない姿は復讐ドラマの域を超えてピカレスク・ロマンのようで、眼光鋭くターゲットを見据える鷲津からは透徹した意志を感じる。

 草彅剛がその時代に求められるものを感じ取り、役柄に投影できる俳優であることに異論はないだろう。『任侠ヘルパー』(2009年/フジテレビ系)や映画『ミッドナイトスワン』(2020年)では、社会に発する言葉を持たない側の人間を体現してきた。そんな草彅が「戦争シリーズ」の総決算である『罠の戦争』で演じる人物に興味は尽きない。私怨に端を発しているのは過去2作と同様だが、今作の鷲津は個人的な色彩が乏しく、不思議と復讐者の持つエゴが感じられない。あらゆるルサンチマンを食い尽くした2010年代以降の復讐ドラマ。記号化された透明な復讐者が行き着く場所を注視したい。

■放送情報
『罠の戦争』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:草彅剛、井川遥、杉野遥亮、小野花梨、坂口涼太郎、白鳥晴都、小澤征悦、宮澤エマ、飯田基祐、本田博太郎、田口浩正、玉城裕規、高橋克典、片平なぎさ、岸部一徳ほか
脚本:後藤法子
演出:宝来忠昭
演出・プロデューサー:三宅喜重
プロデューサー:河西秀幸
音楽:菅野祐悟
主題歌:香取慎吾×SEVENTEEN「BETTING」(Warner Music Japan)
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/wana/

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