『どうする家康』とはリンクせず? 木村拓哉主演『レジェンド&バタフライ』の“新しさ”

 信長の最期として知られている1582年の「本能寺の変」。その最中に、本作の惹句通り「かつてないクライマックス」が突如訪れる。これが2人の夢見た「未来」だったのか……そこには、映画ならではの胸のすくような感動があった。そして、いまわの際に信長が発する言葉である。出会いから30数年、恐らく一度も口にすることのなかった「思い」を、そこで信長は初めて吐露するのだった。そう、『レジェンド&バタフライ』は、苛烈な戦国時代にあって育まれ、静かに貫かれた、ある「純愛」を描いた物語なのだ。かくして「木村拓哉主演のラブストーリーを観たい」という脚本家の願いが昇華されたようにも思える本作だが、それとは別に、このタイミングで織田信長を演じることは、木村拓哉本人にとっても、ある種感慨深いものがあったのではないだろうか。そこが本作における、もうひとつのポイントなのだ。

 というのも、腹心・明智光秀の謀叛によって信長がその命を落としたのは、数え年で49のとき――木村自身の年齢と、ほぼ同じなのだから。よって、映画のクライマックスでもある「本能寺の変」のシーンは、本人的にもやはり期するところがあったのではないだろうか。実際、そのシーンの木村の芝居には鬼気迫るものがあったし、本作においてそれは、誰もが認める「スター」=木村拓哉の何よりの「見せ場」となっているのだから。「人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢幻のごとくなり」――人間世界の五十年など、天上世界の一昼夜に過ぎない、夢幻のようなものだ。そんな「敦盛」の一節を詠じながら、焼け落ちる本能寺で、ひとり刀を振りかざし、舞う木村拓哉。そう、「純愛」を描いた「ラブストーリー」であることも含めて本作は、「織田信長の映画」である以上に、何よりも「木村拓哉の映画」なのだ。信長のごとく、10代の頃から頭角を現し、以降数十年にわたって日本の芸能界を「天下布武」してきた当代きってのスターが、ある意味「大演目」とも言える信長の物語を、その実年齢に見合ったタイミングで演じること。その関わりや影響が多かれ少なかれ、彼と同時代を生きてきた者として、それをスクリーンで観逃す手はないだろう。

■公開情報
『レジェンド&バタフライ』
全国公開中
出演:木村拓哉、綾瀬はるか、伊藤英明、宮沢氷魚、市川染五郎、北大路欣也、中谷美紀、音尾琢真、斎藤工ほか
脚本:古沢良太
監督:大友啓史
配給:東映
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