たまには旧友と語り合うのも悪くない 『離ればなれになっても』は年の瀬に観たい一作に

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、旧友と地元の立ち飲み屋で酒を飲む予定の間瀬が『離ればなれになっても』をプッシュします。

『離ればなれになっても』

 映画には“声”があると思っている。監督やスタッフ、役者たちが熱量高く作り上げた1本の映画には確かなメッセージが込められていて、そのメッセージに観客が共鳴したとき、そのメッセージが脳内で“声”として聞こえてくる。これが一般的な感覚なのかは分からないが、まるで初対面の人と最初からフィーリングが合致して「あなたの言いたいこと分かります!」と言いたくなるような、言葉にせずとも相手が発する言葉が手に取るように分かる、そんな感覚。実は、本作を年間ベスト映画に挙げている筆者は、本作の試写後に熱烈なメッセージを受け取った気持ちでいる。

 それは「(人生何があっても)俺らの友情永遠不滅!」といった、中学生の男子が肩を組んで叫んでいそうな言葉だった。……褒めている。決して冷笑的に作品のことを貶したいわけではなく、“綺麗事”と言われてしまいがちなことを本気で描いている本作に、筆者の心は動かされてしまったのだ。

 舞台はイタリア。1982年に3人の少年と1人の少女が出会って青春時代を謳歌した後、2022年に至るまでのそれぞれの40年の人生が映し出される。誰もが共感することだと思うが、人は成長すればするほど、そして環境が変わってしまうと考え方が変化して、昔の友人とそりが合わなくなることがある。本作でも時が経つごとに摩擦が増えていって、4人の距離はだんだんと遠く離れていってしまう。

 ガブリエレ・ムッチーノ監督は、この3人の男たちに自分の性格の一部分をそれぞれ分け与えたと語っている。(※)実感としても、性質がそれぞれ全く異なる3人には(男ならば)誰かには共感できるだろうと思う。そんな男たちが、酸いも甘いも知って大人になっていく過程を見ていると、自分の人生と照らし合わせながら前のめりにならずにはいられない。

 本作の中で、旧友の男たちが集まって飲み明かすシーンがある。3人は職業や立場などが異なってしまっていて、もはやそれぞれ異なる思想でいる。しかし、それでも楽しく過ごした青春時代の思い出がベースにあるから、会話はまとまらずとも、心の底では相手を受け入れて笑い合うことができる。嗚呼、人生とはそうありたいものだと思う。常に同じ友人と付き合い続けていなくてもいい。成長すれば昔着ていた服が着れなくなるように、友人関係も時と共に変わっていく。それでも久しぶりに再開した友達とくだらない話ができたなら、それは幸せだ。

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