『silent』最後まで煌めいていた湊斗の優しさ それでも“幸せになれ”と願いを込めて

 なにかを失った時、その喪失感に対して使用される「〇〇ロス」という言葉。誰かの引退や休業だけでなく、ドラマなどのコンテンツが最終回を迎えた時にも多く使われてきた。

 12月22日に最終回を迎えたドラマ『silent』(フジテレビ系)も例外ではない。毎週木曜22時、多くの人の心を震わせてきた『silent』が終わったことで、Twitterでは「#silentロス」なるハッシュタグを使用する人も散見された。

 配信サービスの充実により、いつでもどこでもコンテンツが楽しめるようになった昨今。あえてリアルタイムでなくても視聴を楽しめるこの時代に、『silent』は見知らぬ誰かと、その作品のすばらしさを共有しあえるTVドラマの醍醐味と、1つの作品を消費するのではなく繰り返し味わう楽しみを教えてくれた。

『silent』最後まで“言葉”を伝えあうことを選んだ紬と想 “花”に託されたそれぞれの想い

わかりあうためには努力が必要だ。しかし乗り越えるたびに絆はより強くなり、相手のことをより深く知ることができるのではないだろうか。…

 そんなふうに、毎週同じ時間、見知らぬ誰かと待ち合わせしていた『silent』という場所が来週からはもうないとなると、喪失感を感じてしまって当然だ。

 この『silent』というドラマに喪失感を覚える理由は、先述した理由だけではない。最終回のラストシーンが流された後、ソファからしばらく動けなくなった筆者の喪失感の原因は、戸川湊斗(鈴鹿央士)にもう会えないことにあった。

 湊斗に心を掴まれたのは、第2話でのこと。電話口で動揺している大好きな彼女・紬(川口春奈)に「この電話切ったら動画検索して? 『パンダ 落ちる』って。かわいいの出てくるから、それ見て待ってて」と告げて迎えに来る。さらに、迎えにきた先で、紬に対し「コーヒーとココアどっちがいい?」と質問。それに対して紬は「コンポタ」と答えるのだが、「コンポタもあります」とバッグから取り出し、ふたを開けて差し出すという120点満点な行動を見せた。

 「大丈夫? なにがあったの?」と理由を詮索することなく、理由がなんであれ目の前で大切な人が悲しい顔をしていたら、背中をさすり落ち着くまで寄り添う。まさに“主成分優しさ”のような湊斗。「彼を好きにならない人はいるのだろうか」とかなり強めの思考にさせる魅力が湊斗には詰まっていた。

『silent』鈴鹿央士目線でこれまでを振り返る 湊斗が下した、8年越しの静かな決意

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 それだけ肩入れしたからこそ、苦しいと感じる場面も。第4話で、8年越しに再会した紬と想(目黒蓮)を見て「俺がしんどいだけ」と、紬との3年間の関係性に終止符を打った湊斗。2人の意見を聞かずに「この3年、本当は楽しくなかったと思う」「2人を見て、2人がどう思っているか、何を考えているかわかるから」と想に言い始めた時は「その優しさは違う! 湊斗、早まらないでくれ」と画面にかじりついてしまったものだ。しかし、もしも自分が湊斗の立場だったら、同じ結末を選んでいただろうとも思う。花を贈られるよりも、誰かに花を贈って、その人が喜んだ顔を見る方が幸せを感じられる湊斗なら、真意はともかく相手の気持ちを想像して、先回りした行動をしてしまって当然だ。

 また、あのシーンを見て「来週以降、湊斗を応援していた私たちはどうしたらいいんだ」という不安がよぎったのは私だけではないはず。しかし、その不安は杞憂にすぎなかった。

 第5話以降は、紬の彼氏として100点の湊斗ではなく、紬の元カレとして、想の親友としての最高を更新し続けたからだ。特に第10話、紬との関係性に悩む想が湊斗に「耳が聞こえない以外、何も変わってないって言ってくれたけど」「変わったことが大きすぎる」と打ち明けるシーンでの湊斗からはそれを強く感じた。想の発言に「付き合ってほしいとも、付き合ってほしくないとも思っていない」と心の負担を拭うよう親友として発言。しかし、それで止まることなく、表情と声色を変えて「でも、また青羽に何も伝えないで勝手にいなくなるとかは、絶対許さないから」と真っ直ぐとした視線で言ったのだ。紬といることが苦しくなり始めていた想の行動を先読みしてのこの発言。これは、紬を思ってというのはもちろん、湊斗もまた親友・想が突然いなくなったときに寂しい思いをしたからゆえの強さだと感じた。ほかの誰かが説得するのとでは、言葉の重みが違う。

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