“日本三大悪女”北条政子も人間だった 『鎌倉殿の13人』三谷幸喜の女性の描き方の変化
『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』(NHK出版)に収録されたインタビューの中で三谷は「僕は、女性を書くのが下手な脚本家として知られているので、今回こそは汚名返上したいと思い、女性スタッフの声を聞いて、『女性はこんなこと言わない』など、意見をなるべく取り入れさせてもらいました」と語っている。
本人が語るように『鎌倉殿の13人』以前の三谷は女性の書き方が決してうまいと言える作家ではなかった。それは男の書き方が、どんな人間でも善も悪も強さも弱さも兼ね備えた人間として愛嬌のある存在として描かれていたのに対し、女の描き方は作者の男性目線から描いた片面だけの存在になってしまい聖女と悪女ばかりになっていたからだ。
三谷に限らず、男性作家が女性を書くと、極端な聖女か極端な悪女になってしまうことが多い。それはおそらく、男は社会に出て働き、女は専業主婦として家を守るという昭和のサラリーマン社会の名残だ。会社組織という社会の外にいるからこそ、女性には自由な発言や行動をしてほしいという男の理想が投影された結果、現実の女性から見るとズレた存在ばかりが描かれてきたのだろう。そのため、狡さやしたたかさは描かれても、弱さや悔しさを掘り下げることが中々できなかったように感じる。
1980年代のトレンディドラマブーム以降、テレビドラマの世界では、女性が活躍する作品も増え、女性脚本家の執筆した作品も多かったが、男社会に立ち向かうジャンヌ・ダルク的な強いヒロインは描けても、弱さを抱えて世間に翻弄される女性の生きづらさを描くことは難しかった。
しかし、#MeToo運動以降のフェミニズム・ムーブメントの後押しもあってか、女性を過度な聖女や悪女として描くのではなく、善と悪の間で揺れ動く、強さも弱さも持った一人の人間として描こうとする流れが、テレビドラマでも少しずつ生まれている。たとえば、坂元裕二脚本の『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)や現在放送中の渡辺あや脚本の『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)といった佐野亜裕美プロデュースのドラマで描かれる働く女性は、会社組織に所属すれば、男も女も組織のしがらみや巨大な権力の間で翻弄される個人でしかないという描き方となっている。
『鎌倉殿の13人』の政子の描き方にも、同じことが言える。「日本三大悪女」の一人と言われた北条政子も、私たちと同じ家族と組織の間で思い悩む一人の人間だったのだと、ここまで『鎌倉殿の13人』を観続けてきた視聴者が思えた時点で、本作は一つの目的を達成できたと言えるだろう。
脚本家・三谷幸喜の真髄がここに 『鎌倉殿の13人』特集
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK