『すずめの戸締まり』は朝ドラの総集編? “すべての映画がドラマになる”が進行中

 新海誠監督のアニメ映画『すずめの戸締まり』を観て「朝ドラの総集編」みたいだと感じた。

 “朝ドラ”こと連続テレビ小説は、NHKの朝8時から週5日、毎話15分ずつ半年間にわたって放送されるドラマ枠のことだ。

 『すずめの戸締まり』は、女子高生の岩戸鈴芽が、呪いで椅子に変えられてしまった閉じ師の宗像草太と共に、日本全国にある廃墟を旅しながら、災いの元凶となる扉を閉じていくロードムービーとなっている。

 ロードムービーという形式こそ、朝ドラにはないものだが、田舎から都会へと向かう中で少女が様々な人と出会い成長していく姿は、実に朝ドラ的だと言える。

 東日本大震災と向き合うという本作のテーマも、朝ドラでは2013年の『あまちゃん』と2021年の『おかえりモネ』が取り組んだテーマである。

 キャスト面でも朝ドラとの親和性は高い。声優には、2021~22年にかけて放送された朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(以下、『カムカム』)に出演した松村北斗と深津絵里が起用されている。

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 『カムカム』には『君の名は。』でヒロインの声を担当した上白石萌音と、新海監督の娘で子役として活躍する新津ちせが出演していたため、おそらく新海監督も観ていたのだと思う。

 主人公の鈴芽の声を担当する原菜乃華は1700人のオーディションの中から選ばれたそうだが、『君の名は。』の上白石萌音、『天気の子』の森七菜が、ヒロインの声を担当した後、人気女優となったように、原菜乃華も本作をきっかけに大ブレイクするだろう。

岩戸鈴芽役の原菜乃華

 今や新海誠のアニメ映画でヒロインを演じることは、朝ドラヒロインと同じように若手俳優の登竜門となっていると言っても間違えない。

 このように『すずめの戸締まり』には朝ドラとの共通点が多い。だが、物語の構造は、大きく異なる。

 本作を観て感じたのは、とにかく展開が早いということだ。

 2時間2分という上映時間の間に鈴芽は宮崎、愛媛、神戸、東京、東北を移動するのだが、各地域に一日しか滞在していない。

 『小説 すずめの戸締まり』(角川文庫)の目次を読むと、各章のタイトルが「一日目」、「二日目」と書かれており、「五日間」の冒険と「六日目と後日談」で構成されていることがわかる。

 つまり鈴芽はたった一日で、扉を締めるアクションパートとその土地で暮らす人々との交流を描いたドラマパートを消化していくのだが、いくらなんでも過密スケジュールすぎる。朝ドラの“総集編”と書いたのは、この過密さゆえだ。

 現在の朝ドラは本放送が月~金に放送された後、土曜日に「その週の総集編」が放送されるのだが、ストーリーを優先するため、細部のディテールは削ぎ落とされてしまう。

 朝ドラの魅力は、一見どうでもいいような日常のやりとりを毎話続けることで、各登場人物や彼らが暮らす土地の魅力を丁寧に描けることだ。

 しかし、総集編では、細部の魅力が削ぎ落とされてしまう。これは半年に一度、放送される長尺の総集編であっても同じ印象だ。

 『すずめの戸締まり』に1番感じたことは、朝ドラの総集編を観た時に感じる忙しなさである。だから本作を観ていると、尺の都合で削ぎ落とされたエピソードが、たくさんあったのではないかと想像してしまう。

 もしかしたら新海監督は、アニメでいうと2クールくらいのエピソードの脚本を作った後、ギリギリまで物語を削ぎ落としていったのかもしれない。

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