橋本愛と考える、日本映画界を変えていくためにできること “世界”を見渡して意識改革を

 10月24日から11月2日にかけて、日比谷・有楽町・丸の内・銀座エリアで開催される「第35回東京国際映画祭」。今年は「飛躍」をテーマに、昨年から上映会場や上映本数を拡大し、さらには海外ゲストの招聘も本格的に再開される。そんな東京国際映画祭で、昨年に続き2年連続でフェスティバル・アンバサダーを務めるのが俳優の橋本愛だ。9月21日に行われたラインナップ発表記者会見では、「今の日本の映画界の課題について、自分の気持ちをお話しできたらなと思っています」と、ハラスメントや労働環境の問題について、アンバサダーとして発信していきたいと話していた橋本。昨年初めて東京国際映画祭のフェスティバル・アンバサダーを務めて意識したという“海外”への意欲や、日本映画界が抱える問題について、語ってもらった。

「一番身近に感じる問題はハラスメント」

ーー東京国際映画祭のフェスティバル・アンバサダーを務められるのは昨年に続き2年連続となります。昨年初めてアンバサダーとして東京国際映画祭に参加してみて、いかがでしたか?

橋本愛(以下、橋本):私にとって大きかったことが2つありました。ひとつは、アジア交流ラウンジでバフマン・ゴバディ監督とお話しさせていただいたときに得たもの。そしてもうひとつ、実はバックヤードでイザベル・ユペールさんとお話しする機会があったんです。普段は閉鎖的に生きている自分にとって、その2つがものすごく開かれた機会でした。引っ込み思案のいつもの自分だったら怖がって逃げてしまいたくなるような緊張する場面だったのですが、映画祭という存在に背中を押していただいて、勇気を持って飛び込むことができて、ものすごくありがたい経験をさせていただいたなと感じました。

ーー橋本さんが引っ込み思案だというのは少し意外です。

橋本:いままでは、“世界”というものに対してものすごく距離を感じてしまっていたんです。それは自分が英語を喋れないという言語力の問題もそうですし、いままで生きてきた中で海外の人と触れ合う機会がほとんどなかったのも大きいかもしれません。頭では、みんな同じ人間だとはわかってはいても、どこかで“違うんじゃないか”という実感がつきまとっていて……。でも、この東京国際映画祭のおかげで、みんな同じなんだということが、知識だけではなく実感としても初めて体感することができたので、とてもありがたく、非常に貴重な機会でした。

ーーイザベル・ユペールさんとはどのようなやりとりをされたんですか?

橋本:短い時間ではあったのですが、ご自身がいままで演じられてきた舞台のお話や、濱口竜介監督の作品のお話をさせていただきました。芸術に対してのまなざしを含めて、ユペールさんの“深み”を目の当たりにして、自分の器の小ささを改めて実感しました。それと同時に、自分もこれから世界に近づいていってもいいのかも、と初めて思えたんです。自分にとって“世界”は遠いものだと思っていたけれど、こうやって海外の方々と交流する機会をいただけているということは、むしろそういうメッセージでもあるのかなと。それは自分の勝手な思い込みですが(笑)。ただ、そうやって解釈することで、自分の未来が広がったというか、結果的にひとつ選択肢が増えたような気がします。

ーーそれまでは海外への意欲はそこまでなかったと。

橋本:全然なかったです。もちろんご縁があればその流れに任せて……というところはありましたが、自ら歩み寄っていくという選択肢は自分の中にはありませんでした。それと、こういう“世界を見渡す機会”をいただいたときに、自分が住んでいる日本という国の特性だったり、いまの日本の環境を見つめる中で、すごく素敵な部分と、もう少し改善できるのではないかという部分が見えてきて。その改善できる部分をどうにかするためには、やっぱり一度世界を知った上で日本に戻って来れたら、とても面白いなと思ったんです。いまから頑張ったら何十年後かの話にはなってしまうかもしれませんが、実際に実現できるかどうかは置いておいて、自分自身がそう思えたことで、なんとなく心が軽くなったような気持ちになりました。

ーーハラスメントや性暴力、労働環境など、日本の映画業界の問題はここ数年の間で活発に議論されるようになってきました。実際に日本の映画業界に身を置いている中で、もっとも改善しないといけないと感じている問題はなんでしょうか?

橋本:自分ごととして一番身近に感じるトピックはハラスメントです。それは自分が女性であり、女優という立場であるのが大きいと思います。ただ、私自身もロマンポルノやピンク映画を観て映画を勉強したところがあるので、作り手や出る側としてはもちろん、観客としてもいろいろ考えることがあって。いろんな立場を知っているからこそ見えたり、感じることもあるので、むしろそれが説得力に繋げられるのではないかなとも思っているんです。私自身はとても守ってもらいやすい環境を与えていただけているので、まだ心の傷は浅くて済むこともあるのですが、広く見渡せばもっと深い傷を負っている方がたくさんいらっしゃる。見えているのはまだまだ氷山の一角だと思いますし、当事者の方が声をあげることの苦しさは想像を絶するものだと思うので、周りの人たちがそれぞれの立場で、声をあげられる人からあげていって、いずれそれがスタンダードになっていくのが理想なのかなと。まだまだ課題は山積みですが、海外を見ていると勇気をもらえたりもします。

ーー日本の映画業界におけるハラスメントを巡る問題は、事実こそ明るみになるものの、なかなか解決には至っていない事案も多いように感じます。実際に撮影の現場などでは業界的に変わっていると感じることもあるのでしょうか?

橋本:実感としてはあります。もちろん、逆に「なんで変わらないんだ?」と思うこともたくさんあって。でもそれは、そう思えるほど変わっている側面がちゃんとあるということでもあるのかなと。私がこの業界に入ったのは13歳で、中学生だったということもあって、当時はまったくそういう意識がなかったんです。怒鳴られて怖いと思ったこともありましたが、そこに愛情を感じていた部分もあって。いま考えると、“女性”であることによって、不愉快なかたちでみなされたりすることもありましたが、「しょうがない」と自分で自分を押し殺していた部分、抑圧していた部分は確実にありました。それが“当たり前”だから、変えようと思ったこともないという、そういう態度だったんですね。でも最近は、自分が年齢を重ねたこともありますが、「この時代にまだやってるの?」みたいな空気が生まれていることがすごく希望だと思いますし、立場的に自分の意見も尊重されやすくなってきたところもあるので、これはいい意味で活用するしかないなと。そういう気持ちで、いろいろな問題に取り組んでいきたいなと思います。

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