『夜を越える旅』は『銀河鉄道の夜』と同じ“死”と“旅”の物語 萱野孝幸監督が語る
10月21日より公開される映画『夜を越える旅』の監督を務めた萱野孝幸のオフィシャルインタビューが公開された。
本作を作り上げたのは、九州を中心に映像制作を行ってきた萱野孝幸監督。映画作りを志したきっかけについて、萱野監督は「もともと小さい頃から特別映画が好き、というわけではありませんでした。ただ、幼稚園の頃からモノづくり全般が好きで、成長するにつれ何かを作る仕事に漠然とした憧れを抱いていきました。なので、高校ではモノづくりに携わる活動をしたいと思い放送部に入部しました。放送部は、アナウンス、朗読、ラジオやテレビのドキュメンタリーにドラマ制作と活動内容が多岐にわたっていて、NHKが主催する大会もあるんですよ。その活動の中で、カメラを触る楽しさに徐々に目覚めていきました。そして卒業後の進路を選ぶ際、本格的に映像について学ぶべく九州大学芸術工学部画像設計学科を第一志望に選びました。ただその時点でも、もう少しアカデミックに映像というものを学んでみたいという興味程度で、将来具体的にどうなりたいかまでは思い至ってなかったですね」とその経緯を語る。
『夜を越える旅』の制作に至った経緯については、「『夜を越える旅』のアイデア自体は随分前から頭の中にあり、いつか撮れたらいいなあと思いながら脚本も書き始めていました。企画として動き出したきっかけは、『電気海月のインシデント』の上映で参加した2019年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭でした。マーケットで佐賀県フィルムコミッションの方とお話しできるタイミングがあり、ロケ地や助成金についてご紹介いただいたんです。そして、同席していた相川プロデューサーと話し合い、佐賀を舞台に制作決定となりました」と明かす。
具体的なテーマや題材を掲げていたわけではなかったという萱野監督。「ある程度エンタテインメント性は意識していましたが、アイデアノート的なものもほとんどつけていませんでしたし、そういうものに則って構造的に順序立てて書いていくということもしませんでした。ほぼ一筆書きに近いかたちで初稿を書き上げたと記憶しています。書き上げたあとに初めて“あ、これは自分の大好きな『銀河鉄道の夜』だったのかもしれない”と気付きました」と、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』との関連に言及。
劇中にも『春と修羅』が登場しているように、宮沢賢治は“一番好きな作家の一人”だそうで、「意識したわけではなかったのですが、結果的に『銀河鉄道の夜』と同じように“死”と“旅”の物語だったなと。おこがましいですが。因みにハルトシと『春と修羅』の語感が近いのは、撮影中俳優に指摘されて初めて気付きました。本作はまさに春利と修羅場の話なので『春と修羅』はピッタリなわけですが、主人公の名前は執筆の初期段階で決定していたので、偶然、というか何か潜在的な意識が働いていたのかもしれません」と語る。
最後に、映画後半のホラー的な要素の演出についても明かした萱野監督。「CGに関しては最小限の使用にとどめました。クリーチャー的なものの造形は特殊メイクとグレーディング時点での作業が中心です。目のハイライトを潰すなどちょっとした作業で不気味さを表現できるよう、各スタッフと相談しながら進めていきました。ホラー演出の方向性が決定したのは、美術の稲口さんと劇中に出てくる“ソレ=大きな人”の表現方法について話し合った時です。CG にする、映さない、或いは着ぐるみを作って人が動かすなどの案も出ましたが、最終的にハリボテの人型に着地しました。加えて、春利が見る夢の中では、仲間たちが寝ているベッドの膨らみの中に人間はいませんし、虫や鳥の声などの環境音は全て楽器の音色で再現しています。劇中に『夢は奴らの狩場だよ』という台詞があるのですが、夢のシーンは何者かが作った舞台装置であるという意味でそれらの演出に行き着いたのは『ハリボテ』というキーワードがすごくしっくりきたからです。この辺り、作品をご覧いただく際に注目してほしいポイントでもあります」と作品をアピールした。
■公開情報
『夜を越える旅』
10月21日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
出演:髙橋佳成、中村祐美子、青山貴史、AYAKA、桜木洋平、井崎藍子、荒木民雄
監督・脚本・編集:萱野孝幸
撮影監督:宗大介
音響監督:地福聖二
漫画作画:SHiNPEi a.k.a. Peco
音楽:松下雅史
制作:夏目
プロデューサー:相川満寿美
配給:アルファープロデュース、クロックワークス
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