『アトムの童』は日曜劇場版RPG? 山﨑賢人演じる那由他の瞳にともった光
結論から言おう。10月16日にスタートした『アトムの童』(TBS系)は、日曜劇場版のロールプレイングゲーム(RPG)である。以下、その理由を述べる。
潰れかけたおもちゃ会社(中小企業)が、起死回生を狙ってゲームの世界に参入する。父から会社を継いだ富永海(岸井ゆきの)は、伝説のゲーム「ダウンウェル」を作ったインディー・クリエイター、通称「ジョン・ドゥ」の行方を尋ね歩く。第1話では、失意の天才の瞳に光がともり、逆転劇への一歩が踏み出された。
RPGでは、複雑な生い立ちを背負った主人公が、魔王を倒し、世界の謎を解き明かすため冒険に出る。旅の途上で仲間たちと出会い、困難を乗り越える中でパーティーの絆は深まる。次々と襲い掛かる試練に負けず、ラスボスを倒した先には、想像もしなかったエンディングが待ち受けている。
『アトムの童』というタイトルは、謎かけの要素を含んでいる。当初、番宣の告知で見た時、てっきり山﨑賢人演じる安積那由他が「アトムの童」その人なのだろうと思っていた。ところが、第1話を観ていくと、まず零細おもちゃ会社「アトム玩具」とその社長・富永繁雄(風間杜夫)が登場。アトム玩具の経営は火の車であり、火事に見舞われて落城した同社を娘の海が建て直す話だとわかる。再建のキーマンは「ゲーム業界のバンクシー」と称されるジョン・ドゥこと那由他で、海たちの前に立ちはだかるのは、オンラインゲームに力を注ぐIT大手「SAGAS」と社長の興津晃彦(オダギリジョー)だった。
ゲーム市場は20兆円規模で国境を超えて成長を続けており、経済社会での攻防を描く『アトムの童』は『半沢直樹』(TBS系)以降の日曜劇場の設定を踏襲している。同時に群像劇そして登場人物の成長物語でもあり、この点でドラマとRPGを含むゲームは広範囲に重なり合う。焼け落ちた城の姫である海が、父王の意志を継いでゲーム業界という大海原にこぎ出す。ジョン・ドゥを探す最初のステージで、その正体を知る視聴者は海の冒険を固唾を飲んで見つめる。ゲームの世界を離れ、自動車整備工として働いていた那由他は、ひょんなことから海と出会い、彼女の探求を手助けする中でゲームへの情熱を取り戻していく。