『祈りのカルテ』で考える“医療”との付き合い方 患者に向き合う医師・研修医を描く意味
第1話で描かれた精神科での研修が終わり、良太(玉森裕太)の次なる研修先となるのは医療ドラマではなじみの深い「外科」。それでもよくある天才外科医が腕を振るうような展開には持っていかないのがこの『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』(日本テレビ系)の方向性というわけだ。手術をして肉を食って、手術をして肉を食ってのループに辟易としながら、疲労困憊になる良太の姿によってそのハードワークぶりを見せる。そしてあくまでも、研修医である良太が何らかの秘密を抱えた患者と向き合うさまに徹するのである。
外科での指導医は、同期の裕也(矢本悠馬)の父であり、精神科での指導医だった立石(松雪泰子)の同期でもある冴木(椎名桔平)。そして受け持つ患者は、再来週に80歳になろうとしている老齢の胃がん患者の近藤(伊武雅刀)。冴木の診断では近藤のがんは胃の粘膜内に留まっており、内視鏡手術で除去できるとのことで近藤も初めは手術に積極的。しかし翌日、近藤は突然「これはがんじゃない」と言い出して手術を拒絶し始めるのである。話をしようとしても同じことの一点張りで困惑する良太。ところがまた翌日、今度はリスクの大きい開腹手術を求めてくるのである。
深夜に同室の患者・若宮(前原滉)と当直室に忍び込んだ近藤は、偶然鉢合わせした良太にカルテを開示するよう求める。そこで時間もお金もかかると言われた途端、顔色を変える近藤。そして近藤がころころと要求を変えるタイミングで会っていた人物が保険会社の人間であることを知り、それまでの会話の内容をカルテから精査する良太。導き出した答えは、近藤が家族のために保険金が支払われる病気であることを望んでいるということである。結果的に冴木は予定を早めて開腹手術を行い、近藤の望むような診断を下す。それが本当かどうか良太に訊ねられてにごす点は、ドラマの落としどころとしては許容範囲である。
近藤の事例にあるように、上皮内新生物では悪性新生物とみなされず保険金の支払いの対象外となるケースもがん保険のなかには少なからず存在しており、保険選びの注意点として代表的なところだ。そのあたりは選ぶ保険の約款をきちんと確認する必要が当然あるわけで。それよりも今回のエピソードで思うところは、家族の生活のため、孫の学業資金のために保険金を必要とし、自身の病気が重いものであることを望む患者がいるということである。ここにはドラマの一つのエピソードでは掌握しきれない根深い問題が見え隠れしていると思えてならない。
また一方で、近藤の最初の要求に対して病院の医師たちが仮定する「民間療法」との付き合い方というのもまた医療をめぐる一つの課題といえよう。とりわけ多いのが、がん治療に対する民間療法であり、科学的根拠のないものに対しても容易にアクセスできてしまうのは人間の冷静な思考の範疇を凌駕するほど著しく情報が発達したことの功罪でもある。劇中で冴木が言うように、「患者に何かを強制することはできない。医者ができるのは最も適していると考えられる治療を提示することだけだ」。“最後の砦”である外科だからこそ必要な冷静なスタンス。患者に向き合う(あるいは、向き合いすぎる)医師・研修医を描くことは同時に、患者になりうる誰しもに医療との付き合い方を考えるきっかけを与えることにもなるのである。
■放送情報
土曜ドラマ『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜放送
出演:玉森裕太、池田エライザ、矢本悠馬、濱津隆之、堀未央奈、YU、松雪泰子、椎名桔平
原作:知念実希人『祈りのカルテ』シリーズ(角川文庫/KADOKAWA)
脚本:根本ノンジ
演出:狩山俊輔、池田千尋
チーフプロデューサー:田中宏史
プロデューサー:藤森真実、戸倉亮爾(AX-ON)
音楽:サキタハヂメ
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
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