坂元裕二脚本に翻弄され続けた『初恋の悪魔』 一貫して描かれた“悲劇”の生まれ方
一方、もう1つの「初恋」は、言うまでもなく「摘木星砂」を巡る2人の恋だ。どちらの人格の星砂もそれぞれの心に残り続ける過去の「シミ」を優しく消し去ることはできても、現実のシャツについたカレーのシミは残り続けて、2つの恋物語を残酷に横断する。それではもう1人の「初恋」はどこにいったのか。小鳥の渚(佐久間由衣)への恋心が、4人を最初に結び付けただけに、ポッ、ポッとキュートに燃える「やきもち」として消化されるのみに留まるのは、愛おしいけれど、いささか切ない感じもする。
本作で一貫して描かれるのは、悲劇は往々にして、大勢の人々の些細な行動によって起こるということ。第2話において白昼の密室は、恐怖心を煽られた住民たちがそれぞれ自室に籠もったことから出来上がった。第7話において菜々美(あかせあかり)のアリバイが認められなかったのは、彼女をよく思わない上に自己保身の必要があった人々が、本当は存在した彼女を存在しなかったことにしたから。リサ(満島ひかり)と星砂たちの幸せな日々を奪ったのは、「頭のよくて正しくて近道が好きな人たち」が告げ口して居場所を奪ったからだ。そんなひりつくような「世間」の冷たさに対して、定点観測的に映しだされる、登場人物たちそれぞれの玄関とそこに散らばる靴の様子が、どれだけそれぞれの人となりや、関係性の変化を、愛を持って示していることか。
さて、私たちと彼らは最終話、「知らない方がよかったこと」に直面してしまうことになるかもしれない。でも、「人間は心配してもしょうがない」。優しさでできた「根拠のない大丈夫」に守られた彼らには、小鳥が「にぎにぎ」した温かいおにぎりが待っているのだから、きっと大丈夫だ。
■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
©日本テレビ
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