竜星涼、『ちむどんどん』で証明した演技力の高さ 賢秀が“ちむどんどん”する未来を信じて

 最終回が迫ってきたNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』。第23週「にんじんしりしりーは突然に」は、前週に続き竜星涼演じる賢秀にフォーカスが当てられた物語が展開されている。

 これまで、ヒロインの暢子(黒島結菜)を中心に比嘉家の面々がそれぞれに直面する困難を乗り越えてきたものの、賢秀はほかのキャラクターと比べて少し違う役割を背負ってきた。あまりにも強調されて粗暴に、無知に、素直に描かれてきた彼は、時々倫理観を問われるような行動を何度も繰り返してきた。彼が何かをすると本当にロクなことにならないと、物語を見守る私たちも半ば呆れてしまう、いわゆる「鑑賞者から嫌われる」タイプのキャラクターとして意図的に描かれてきたのだ。

 さすがに何度も詐欺にあって、お金のトラブルを経験した彼が“ビッグビジネス”を諦めて、地道にコツコツ働くことの大切さを学んでいい頃合い……と思うたびに、やはり同じような間違いを犯してしまう。

 賢秀があそこまでエキストリームに突き抜けたキャラクターになれたのは、演じる竜星の手腕あってのことだ。研音に所属する彼は、ドラマ『素直になれなくて』(フジテレビ系)で俳優デビューを果たした後、人気シリーズ劇場版第2弾『ライアーゲーム -再生-』で映画初出演を飾った。

 その後、『獣電戦隊キョウリュウジャー』(テレビ朝日系)で桐生ダイゴことキョウリュウレッド役でTVドラマ初主演、一躍ブレイク。それだけにとどまらず、183cmという高身長を生かしたモデル活動でも知られている。パリコレには二度も出演しており、歩くショーはかなりモードなテイストのメゾンが多く、キリッとした表情と雰囲気は『ちむどんどん』の賢秀と似ても似つかずで、思わず同一人物なのか疑ってしまうほど。そのギャップを自ら演出できていることこそ、彼が演技力の高い素晴らしい俳優であることの証明と言える。

 賢秀はしかし、これまでの破天荒な道のりを振り返ってみると微細ながらにも成長してきているのだ。最初は平気で良子(川口春奈)の婚約者である金吾(渡辺大知)の両親が用意したお金を黙って持ち逃げしたり、給料を前借りして姿をくらましたり、逮捕されてもおかしくない悪行が目立った。何より、本人がその行いについてほとんど反省の色を見せていない点が恐ろしくもあった。

 しかし、彼は人を陥れてやろうとかいう気概はなく、良くも悪くも何も考えない純粋な男だった。そのため、自分自身も何度も騙されてお金を奪われてきている。それでも沖縄時代に出会った詐欺師・我那覇(田久保宗稔)を信じ続けようとする、根は人の善意を疑わない男なのだ。

 だから、何度も家族のために何かしようと奮闘して、からぶって、迷惑をかけて、どうしようもなくなってしまう。解決方法もわからないので、癇癪を起こしてその場から消えてしまうような行いを繰り返してきてしまった賢秀。今思うと、そういった自分自身や状況を改善することができないことが一番辛いのは、賢秀本人だったはず。しかし、そんな彼も少しは丸くなって成長できたように思えたのが、猪野養豚場で働き始めた後のことだ。

 もちろん、依然として「ビッグチャンス」を掴むために勝手に養豚場を退職し、失敗してまだ戻ってくることを繰り返してはいたものの、徐々に養豚場に落ち着き、今では「ずっと豚の世話をしたい」と三郎(片岡鶴太郎)に本音を漏らすほど、自分の仕事を好きになっていた。猪野寛大(中原丈雄)に営業を任された時は、自前のトーク力をようやく活かすことができた。適材適所という言葉があるが、賢秀はようやく自分の適所に辿り着くことができたように思える。そして、その養豚場が彼にとっての適所であるのは、豚の仕事だけでなく、何度も無礼を行ってもまた受け入れてくれる寛大の存在、そして唯一自分に対して本気で怒り、“許さない”厳しさを持ってくれる清恵の存在も大きい。

関連記事