『ちむどんどん』暢子にとって理想のパートナー矢作 和彦とのスタンスの違いが浮き彫りに

「接していくうちになぜか放って置けなくなってしまう、かめばかむほど味が出るタイプ」

 これは井之脇海が連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合)に出演が決まった際、自身が演じる料理人の矢作知洋について語っていた言葉だ。

 矢作は鶴見・東京編がスタートした第20週から登場。上京したてで「アッラ・フォンターナ」を訪れた暢子(黒島結菜)に彼が料理を運んできた時、誰かこんなに重要な人物になると予想しただろう。井之脇の言葉通り、矢作は今や物語になくてはならない存在となった。

 これまでの矢作はどちらかといえば、予想を悪い意味で裏切るキャラクターだった。当初は暢子の恋のお相手候補の1人としても挙げられていたが、レストランでの仕事は未経験、しかも男性だらけの厨房に女性である彼女が入ることに矢作は想像以上に反発する。

 2人の間にあったわだかまりも、暢子がシェフ代行を任されたことをきっかけに一旦は溶け、そのまま矢作は料理人の先輩として彼女を支えていく存在になると思われた。

 が、つくづく人間はうちに何を秘めているか分からない。オーナーの房子(原田美枝子)が暢子を目にかけ、料理人としての成長を促している間も矢作は虎視眈々と独立の機会を伺っていた。

 彼が半ば逃げる形でお店を去ったのは残念だが、やはり同情できる点も多々ある。世の中には他人から手をかけられる人間とかけられない人間がいて、矢作は後者だ。基本的にしっかりしているから「放って置いても大丈夫」と思われやすいし、プライドの高さゆえに他人を頼れない性格も相まってなかなかその異変に気づきにくい。

 暢子は頼りないけど、素直でまっすぐだから特に年上の人から可愛がられるタイプだ。それは幼い頃からローカルコミュニティで育ってきた彼女だからこその長所でもある。

 でも、本当に危なっかしいのは矢作の方であり、そばで見守ってくれるメンター的な存在が必要だったのではないだろうか。お店に対し不徳の限りを尽くした矢作を房子が許したのも、自分がそういう存在になってあげられなかったことへの贖罪でもあったのかもしれない。

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