タレントや俳優が声優をすることに集まる批判とその反論 演出とブッキングの側面から考察
極端な例を挙げるなら、『となりのトトロ』(1988年)の糸井重里、『風立ちぬ』(2013年)の庵野秀明など、スタジオジブリ作品では演技を生業にしていない人物がよく起用されている。それはあえてプロではなく、素人感を出すための演出上の狙いであり、その場合は制作側の意図の問題だ。
そもそも声優の人たちも、専門学校などに通って、はじめから声優を目指していた人もいれば、俳優や劇団員として芽が出なくて声優に転向した人もいたりする。このように、実は俳優と声優はそんなに遠くない職業なのだ。
これは、お笑い芸人が俳優としてドラマや映画に出演することにも似ている。芸人は、大勢の客の前でステージをこなしている。コントや漫才も、劇のセリフを読むのと同じで、やっていることは俳優に近い。
つまり、結果的に完成した作品の良し悪しは、厳密には消費者の感性による判断であり、作品に込められているのは制作側の意図のみであるということ。「タレントや俳優が声優をやるべきではない」という論争は、作品に合っていないタレントや俳優をキャスティングしたことに対してであって、作品の空気感を作れる人であれば問題はないはずだ。
歌手が俳優をするべきではない、俳優が歌手をするべきではない、声優がアイドルや歌手をするべきではない……など、そもそも論を持ち出せばいくらでも言えてしまう。一つ言えることがあるとすれば、人間はひとつの職業しかしてはいけないという制限はないということ。それこそが固定観念である。
時には思ってもいなかった才能に出会えるかもしれない。それは固定観念に縛られていては出会えなかった体験のはず。そんな出会いも魅力のひとつとして捉えてみることで、より作品を楽しめるのではないだろうか。
■公開情報
『夏へのトンネル、さよならの出口』
全国公開中
声の出演:鈴鹿央士、飯豊まりえ、畠中祐、小宮有紗、照井春佳、小山力也、小林星蘭
監督・脚本:田口智久
原作:八目迷
キャラクター原案・原作イラスト:くっか
キャラクターデザイン・総作画監督:矢吹智美
色彩設計:合田沙織
美術監督:畠山佑貴、栗林大貴
撮影監督:星名工
CG:チップチューン
編集:三嶋彰紀
音楽:富貴晴美
音響監督:飯田里樹
制作プロデューサー:松尾亮一郎
アニメーション制作:CLAP
配給:ポニーキャニオン
©︎2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会
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