毎熊克哉は“不在”を演じられる俳優だ 『初恋の悪魔』でも“謎”を担うキーマンに
恋、友情、そして謎……人々のさまざまな思惑が交錯するドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ系)において、“キーマン”ともいえるポジションに配されている毎熊克哉。彼が演じているのは、主人公・馬淵悠日(仲野太賀)の兄である馬淵朝陽だ。本作における一番の“謎”を担う役どころの彼が、物語が後半戦に突入したいま、ついに本格的に動き出したところである。
本作の公式サイトのキャラクター相関図のページにて、“悠日の兄。控えめな弟とは対照的に明るく気持ちのいい性格。仕事でも次々に手柄を上げる刑事課の優秀な刑事だったが、3年前、捜査中の事故で死亡。殉職と処理されているが……”と紹介されている朝陽(※)。ご存知のとおり、悠日、鹿浜鈴之介(林遣都)、摘木星砂(松岡茉優)、小鳥琉夏(柄本佑)らが交友関係を結んでいる現在、彼はこの世に存在していない。“本格的に動き出した”と先述したが、朝陽は物語の開始時点ですでに亡くなっていたため、他の登場人物たちの回想の中で、ようやくその実像の輪郭が浮かび上がりつつあるところだ。朝陽は不可解な死を遂げているので、彼に関するあらゆることが“謎”だったのである。そして彼がかつて実在していたことと、現在における不在こそが人々を結びつける役割をも果たし、ドラマの推進力の一つとなっているのだ。
朝陽はその設定からして特異なキャラクターである。画面に登場しないにもかかわらず物語の重要な人物であり、誰かが彼の名を口にするたび、視聴者にはその重要性が刷り込まれてきた。脚本の妙と、それを語る俳優たちの妙演があってこそ為せる業だろう。そしてこれにより、朝陽を演じる毎熊に課されるものは大きく重くなっていた。各登場人物の語りによって、視聴者が持つ朝陽のイメージは独り歩きをしていたに違いないのだ。しかし毎熊はそのイメージにピタリとフィットするような朝陽像を立ち上げていると感じる。セリフをはじめ、いまのところ朝陽に用意された情報は非常に限られているはずだ。他者の語りから見えてくる朝陽像ーーつまり、他者との関係性の中に垣間見えるキャラクターを忠実に表現しているということなのだろう。それも、相当な場数を踏んでいる毎熊とあって、本作に対する視聴者の興味・関心を左右しかねないポジションながら、じつに高い安定感でスリルを提供してくれる。今後ますます“キーマン”としての動きが活発化してくるのではないだろうか。
そんな毎熊は、思い返せば“兄役”が続いている。『ドクターホワイト』(2022年/カンテレ・フジテレビ系)では瀧本美織演じる高森麻里亜の失踪中の兄を、『コントが始まる』(2021年/日本テレビ系)では菅田将暉演じる主人公・高岩春斗の兄であり、人生に挫折し深く傷ついた男を演じていた。いずれもその存在が物語に起伏や緩急を生む“キーマン”だ。そして今作『初恋の悪魔』と同じく、特殊な登場の仕方であった。前者では冒頭から視聴者には姿を見せるも、物語の世界の中では“失踪中”。後者では急に登場してきたかと思いきや“ひきこもり”という設定だったため、なかなか姿を見せず、視聴者が掴むものは弟の語りによるものが大きかった。どの作品にも共通して“他者(他のキャラクター)がその存在を語る”というシナリオ上の設定が大前提としてあるが、毎熊は自身の演じる役を何か“空気”のようなものとして作品中に漂わせられる俳優だと思う。言い換えればそれは、“不在”を演じられるということだ。これは、写真での登場や短い出番でも視聴者の脳裏に張り付く顔立ちや声といった、毎熊自身が持つ固有の要素によるものも大きいだろう。おそらく動きが活発化するこれからが、俳優・毎熊克哉の本領発揮となるはずである。
参考
※ https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/chart/
■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
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