『るろうに剣心』が追求する“実写ならでは”の表現とは? 時代劇の美学と異なるリアリティ
チャンバラではなくボクシングの殴り合い
大友監督は、マンガ原作の『るろうに剣心』をアニメに近い美学を持つ時代劇とは異なる方向性を打ち出している。
『るろうに剣心』はその点、時代劇的でもなくチャンバラでもなく刀を使ったボクシング、殴り合いだと思って撮っている。(※4)
この「殴り合い」という言葉が示すものは何だろう。本シリーズのアクション監督を担う谷垣健治氏の証言を参考にしてひも解いてみよう。
谷垣氏は殺陣には2種類あると語り、『るろうに剣心』シリーズのアクションの方向性を以下のように説明している。
殺陣にも2種類あると自分では思っていて、それは『ドラゴン・キングダム』のジャッキーVSジェット・リーに観られるような「息もピッタリ」な殺陣。もう熟練されたプロの芸を楽しませてもらうというかね。もうひとつは「息の合わない、生っぽい」殺陣。今回は、完全に後者を狙ったわけだ。(※5)
ジャッキー・チェンとジェット・リーのような熟練の専門家による格闘シーンは、ある意味、舞踏のようなもので、息を合わせて動きが決まっている。それに対して、『るろうに剣心』では、約束通りに動かない時もあり。そのちぐはぐさでリアリティを高めるという方向を目指した。大友監督は、それをボクシングのような、相手を本当に殴り倒すような真剣勝負のようなものという意味で例えたのだろう。
大友監督が目指さなかった従来のチャンバラ時代劇は、基本的に息を合わせるタイプだ。その点でいうと、『るろうに剣心』というシリーズは、やはり一般的な時代劇とは異なる。
従来の時代劇とは違うものを作ろうと大友監督は考えたのだから、当然と言えば当然だが、舞踏として息を揃えようとせずに、不揃いに生っぽい動きで本当の殴り合いのように見せるという意識は、谷垣氏の言葉を借りると「今目の前で起こっていることを大切にする、という方針でやっていったのが逆に『作り物っぽさ』を排除できていい結果」を生んだと言えるだろう。(※6)
「今、目の前で起こっていることを大切にする」というのは、ドキュメンタリー作家のような言葉だ。実際に大友監督は、NHKでドキュメンタリー制作からキャリアをスタートさせ、ドラマ演出に転向してからも、時代考証を含めて現実に近い手触りのリアリズムで勝負する作品を生み出してきた作家だ。
大友監督は、「『龍馬伝』的なリアルな土壌にマンガ的なキャラクターを入れ込んでいって、それをマンガ的なタッチではなく描く」(※10)と、『るろうに剣心』シリーズについて語っている。「カメラの目の前で起こっていることを大切にする」姿勢が、「実写ならでは」なのではないか。
様式ではなく、カメラの前で起こったことは偶然も含めて大事にする姿勢。それは予定した動きを描くアニメとは異なる「実写ならでは」の美学と言える。「実写ならでは」の美学があるからこそ、『るろうに剣心』は実写化の成功作だと言えるのではないだろうか。
参照
※1.『時代劇入門』春日太一、KADOKAWA、P329、2020年
※2.『殺陣 チャンバラ映画史』永田哲朗、現代教養文庫、P12、1993年
※3.『殺陣 チャンバラ映画史』永田哲朗、現代教養文庫、P82、1993年
※4.『創』2012年7月号、特集「テレビから映画へ 転進後初の監督作品」インタビュー道田陽一、P75、創出版、2012年
※5.『アクション映画バカ一代』谷垣健治、洋泉社、P228、2013年
※6.『アクション映画バカ一代』谷垣健治、洋泉社、P228、2013年
■放送情報
『るろうに剣心 京都大火編』
日本テレビ系にて、9月2日(金)21:00〜22:59放送 ※5分拡大
監督:大友啓史
脚本:藤井清美、大友啓史
出演:佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優、大八木凱斗、江口洋介、伊勢谷友介、土屋太鳳、田中泯、宮沢和史、藤原竜也、神木隆之介、滝藤賢一、三浦涼介、丸山智己、高橋メアリージュン、福山雅治
アクション監督:谷垣健治
音楽:佐藤直紀
原作:和月伸宏『るろうに剣心 –明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心京都大火」製作委員会