『ONE PIECE FILM RED』のAdoに至るまで 音楽×バトルアニメの発展の歴史を辿る
公開から20日間で動員人数720万人、興行収入が100億円を突破した『ONE PIECE FILM RED』。その勢いは、まだまだ止まらない。
本作のヒロインであるウタの歌唱キャストは、喉を潰してがなり上げるエッジの効いた特徴的な歌声で世間から注目を浴びている歌手・Ado。配信機能のついた電伝虫を偶然拾い歌声を世界に発信したウタと、動画シーンでのブレイクが活躍のきっかけとなったAdoのバックグラウンドの重なり方も印象的だ。
そんな彼女の歌声の魅力に『ONE PIECE FILM RED』で魅了され、Adoのアルバムを家のスピーカーで大音量でかけたファンも多いのではないだろうか。
ウタは歌うことを通じて相手を攻撃できる特殊な力を持っており、劇中では7つの歌を披露する。中田ヤスタカやMrs.GREEN APPLEをはじめとした有名アーティストたちから提供された魅力溢れる楽曲を高々と歌い上げるウタのステージシーンに、自分が本当にライブ会場に足を運んでいるような気持ちにさせられる。Adoをメインに観客席からステージを見上げるようなカメラワークも見事であった。
そんな「新時代」をはじめとしたAdoの楽曲を、映画公開後、YouTubeなどの動画シーンでは多くの人気歌い手たちが最速でカバーをする様子も見受けられた。それだけ本作における音楽の力は圧倒的なものであり、普段アニメを観ないような『ONE PIECE』ファンも巻き込み、さらなる熱狂を生んでいる。
メインヒロインのバトルが歌で表現されるアニメには有名な過去作も多く存在し、今では一つのジャンルとして確立されているといっても過言ではない。本作をきっかけにそうしたアニメの過去作を辿ってみるのも一つの楽しみ方だろう。
世界を救うために“歌で”戦うヒロインたちの姿
戦闘シーンと歌がマッチした過去作といえば、まずは『マクロス』シリーズだろう。
シリーズの中でも一際人気を集める楽曲、リン・ミンメイ「愛・おぼえていますか」など戦争を終結させるきっかけとして歌が展開を盛り上げていく形を作り上げたのが『マクロス』シリーズだ。ちなみに『マクロスF(フロンティア)』のシェリル・ノームでは、『ONE PIECE FILM RED』にも受け継がれている歌唱担当と声優を分ける試みにも成功している。
その後『戦姫絶唱シンフォギア』で少女が歌って召喚したものを、自らに憑依させて戦うスタイルのヒロインたちがさらに浸透し、近年ではAIの歌姫たちが数々の楽曲を披露する『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』のヒットも話題となった。
『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』では、エステラとエリザベスが破滅へと向かう宇宙船の中で歌う「Ensemble for Polaris」のように、一つのキャラクターの終焉への想いを歌で表現する姿も印象的だ。音楽で表現できるのは、明るい大円団の結末や救済だけではない。
キャラクターの抱える苦しみや生い立ちが絡んだ繊細な心情を音楽で演出することができるのも、歌をメインに取り入れた作品ならではの強みだと感じる。
ネタバレを避けるべく明確なシーンは伏せるが『ONE PIECE FILM RED』では、ウタが「世界のつづき」を歌う場面で、周囲に求められる姿であろうとするウタの葛藤や苦しみが音を通して伝わってくる。音楽に耳を傾けていると、ウタの揺れる感情の形に触れた気がした。