柳楽優弥、脇役でも絶大なる存在感 “怪演”も可能にする研ぎ澄まされた演技力

 そして、『誰も知らない』からちょうど10年後の2014年、それまでの修行の日々が出演作として花開く。この年、宮本亜門演出の舞台『金閣寺』で吃音のために周囲と馴染めない孤独な青年・溝口の苦悩を体現した柳楽は、続く福田雄一監督&脚本のコメディドラマ『アオイホノオ』(テレビ東京系)で漫画家志望の大阪芸術大学の学生となり、デフォルメが効いたコミカルな顔芸も披露。そして山田孝之主演作『闇金ウシジマくん Part2』で、過酷な労働環境で働くストーカー男を不気味に演じ、さらに芥川賞作家・中村文則の小説を映画化した『最後の命』で幼少期に遭遇した事件のトラウマを抱える青年の心の機微を繊細に表現。これら振り幅のある役柄を入念な役作りで演じきり、完全復活を遂げたのだ。

 その後も真利子哲也監督作『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)の狂気に満ちた若者役や、宮藤官九郎脚本のドラマ『ゆとりですかなにか』(日本テレビ系)の東大を目指して11浪中の風俗店の呼び込み人など、是枝監督が『誰も知らない』で柳楽のキャスティング起用の理由にも挙げた目力を武器に、数々のクセの強い役柄を担当。

 なかでも印象深いのは、小栗旬主演『銀魂』シリーズで演じた土方十四郎役だろう。この作品では規律に厳格な真選組の“鬼の副長”として、最高にクールで凛々しい姿を見ることができる。その一方、続編となる『銀魂2 掟は破るためにこそある』(2018年)では、謀略によって“ヘタレオタク”化した土方と志士としての人格が交互に入れ替わる難しい役どころを演じ分け、そのスイッチぶりも話題に。

『銀魂2 掟は破るためにこそある』©️空知英秋/集英社 ©︎2018 映画「銀魂2」製作委員会

 また近年では、浮世絵師・葛飾北斎の生涯を描いた『HOKUSAI』(2021年)で北斎役、そしてドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-(2021年/日本テレビ系)でのクールな敏腕塾講師役で渾身の演技を披露。柳楽はカリスマ性あふれる孤高の天才役が良く似合う。

 世界が認める天性の才能に加え、一度どん底を経験したからこその情熱と役者魂でもって放たれる、気迫に満ちた演技は絶品だ。そんな柳楽が臨んだ最新作『さかなのこ』。その研ぎ澄まされた演技をぜひ劇場で堪能してほしい。

■公開情報
『さかなのこ』
全国公開中
出演:のん、柳楽優弥、夏帆、磯村勇斗、岡山天音、三宅弘城、井川遥
原作:さかなクン『さかなクンの一魚一会 〜まいにち夢中な人生!〜』(講談社刊)
監督・脚本:沖田修一
脚本:前田司郎
音楽:パスカルズ
主題歌:CHAI「夢のはなし」(Sony Music Labels)
製作:『さかなのこ』製作委員会
制作・配給:東京テアトル
©︎2022「さかなのこ」製作委員会

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